L K 「SOSの子守唄」
28年後。
この惑星には生命は存在しなかった。植物、菌類やバクテリアはおろか、ウイルスさえ見つけられない。私の知り得る限り、人類は自分たち以外のそういった生命には、まだ出会えていない。
私は、この惑星で新しい任務を遂行するため、20年以上人工睡眠を控え、後継の探査船の到着に備えてきた。眠って待つことの無意味さより、新天地の開拓に『希望』を感じることが出来るようになったから。
船から着陸船を降下させ、安定した地盤に基地を建設した。そこは、炭酸ガス濃度の高い大気で呼吸は出来ないから、現地で調達した資源から生産した資材で作り上げたドーム内に、水から取り出した酸素を満たし、居住区を作り上げた。
水は豊富に存在するし、炭素から有機物を合成することが可能なので、食糧を生産することも出来た。しかし、この星を訪れるものは、合成食料だけでは満足しないと思う。
基地内に農場を建設し、人工睡眠で運んできた家畜を飼育した。野菜だけではなく、草花も栽培した。きっと宇宙旅航者たちは、この花壇を見て、心を癒されるはずだわ。私に彼らをもてなしたいという感情が芽生え始めたことに気付いた。
猫をペットとして側においてみると、ミッションに従事すること以外の価値を見出せたような、不思議な感覚を味わうようになってきたの。この新世界では、私が創造主であるかのような錯覚を覚えてしまう。
明日、この私の星に、太陽系からはるばる18人の客が到着する。
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)