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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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L K 「SOSの子守唄」

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第三話 ホロシミュレーション



 この星の環境で生物を育てるのは容易じゃないわ。遺伝子レベルでの改造が必要。でも、新しいラボのホロチャンバーは、スゴイ。
 その部屋の中が立体映像で満たされ、まったく別の空間がそこに現れる。プログラム次第で、どんな場所でも再現出来るのは以前から知っていたけど、それらはすべて現実と変わらないわ。手に取ってみても本物としか思えない。部屋の外に持ち出すことは出来ないけれど、長期に及ぶシミュレーションのためには、そこで生成した食品を実際に食べて、人間の体の栄養とすることまで出来てしまうの。

 私たちは、この星の環境に適応出来る植物を作り出すのに、どう遺伝子を組みかえるべきかいろいろ試してみた。時間を早めて高速で再現すれば、あっという間に結果が得られる。そして100回を越える試行錯誤の末、最適な方法を見つけ出すことに成功した。この星は、きっと緑に包まれた惑星となることでしょう。やがては酸素が増えて、呼吸も出来るように。

 タックが「ニャー」って鳴いた。餌の時間。私の足に擦り寄ってくるのは、おねだりの合図。歩きづらくて面倒だけど、こういう瞬間が好き。
 ケイには擦り寄ったりしない。擦り寄っても、指で摘み上げられてしまうものね。

 ケイは、お願いすると、作り笑顔で何でも聞き入れてくれる。とても忠実。私が上官に当たるわけだけど、命令はしない。彼の最新の科学知識は、私にとって、とても役に立つわ。この先、彼無しじゃ、この星の開拓なんて考えられないくらい。

 私たちの開拓は、まず基地にもっと窓を作ることからスタートしたの。ガラスの材料の珪素は、どこにでもごく有りふれた物質。シリコンの材料にもなるから、半導体としての需要にも役に立つ。この星のエネルギー資源の調査をしながら、高純度の珪素を探していたら、ケイが基地から300キロほど離れた場所に、酸化珪素の層を発見してくれた。
 おかげで大量の強化ガラスを作ることが出来て、基地を覆う天井ドームは、ガラス張りになった。明るくなって、家畜たちも喜んでくれているかしら。

 これで、ほんの僅かだけど、昼間のエネルギー消費を削減することが出来たわ。
 この未開の星では、エネルギー問題は重要なの。今までは船で使用していた万能元素『エタニチウム』からプラズマを生成してきたけど、残り15年分ぐらいしか残っていない。基地の規模が大きくなっていくと、更に不足してくるわ。
 原始的な放電現象からプラズマを得ることは出来るけど、宇宙船を動かすほどの力を、易々とは得られない。エタニチウムを節約しておきたいから、今はなるべく電気をエネルギーに生活しているの。まるで山奥のキャンプみたいね。

 ホロチャンバーでシミュレーションしてみると、この星の環境では、エタニチウムが存在する可能性は極めて低かった。でも、代用品の『インフィニチウム』なら手に入りそう。それは、地下30キロより深いところに存在している可能性がある。これは取り出すのに一苦労。高温高圧な深さでは、金属ドリルや水圧式掘削機は使えない。作業にはプラズマを大量消費することになりそうだし、インフィニチウム自体が、とても不安定な物質だから、安全対策にもかなりの工夫が必要になってしまうわね。一か八かの賭けには出られないわ。
 これも最善策をホロシミュレーションしてから、実行しよう。

 新型探査船が出発して3ヶ月、太陽系からのメッセージは何も届いていない。
(私はもう不要になったのかな・・・)
ここで開拓を続けていることを報告しているけれど、訪れる者なんかいるはずが無い。もしこの前の探査船が、知的生命体を発見してくれたら、ここは定期航路になるかもしれないけれど、それは何十年も先の話だわ。もし発見出来ればの話だけど。
 私みたいに、生命探査に出た船はいくつもあるのに、未だ一つの命さえ発見出来ていないらしい。人類は宇宙で孤独な存在なのかもしれない。
 でも、私にはケイがいてくれる。バディとして以上の信頼を感じているわ。

「コンピューター。ホロプログラム停止」

 ケイがシミュレーションを中断して、ホロチャンバーを出てきた。
「どうしたの?」
「インフィニチウムの掘削作業は、規模が大きすぎて、このチャンバーでは、正確に再現し切れません」
「掘削は私たち二人でも、計算上可能なはずよ」
「二人で手分けする場合、行動範囲が広すぎるのです。計算上可能でも、映像で投影出来る規模を超えては、観察が出来ませんでした」
「目で見てみないと、気付かないことがあるかも知れないってことね」
「この場合、成功する確率は、13%ダウンします。エルにそのような危険を冒してほしくない」
「貴重なエタニチウムを使って、僅かな失敗もしたくないわ」
「もっと大きなホロチャンバーが必要です」
「そんな施設が作れるかしら」
「ここの設備と資材では、まだ到底不可能です」
ケイは拳を握り締めている。
「落ち着いて、ケイ」
「私は落ち着いています」
「焦っているように見えるわ」
「焦りなど感じる機能はありません」
「でも、そう見えるの」
「・・・では、落ち着いて考えましょう」
「タックを抱いてあげて。そうすれば落ち着けるから」
ケイはタックを抱き上げて、作業机に腰掛けた。
「猫には、お守りのような機能があるのですね」
「お守りですって? 昔の十字架のようなこと?」
「はい。抱いているだけで、状況は変わらないのに、安心出来る」
「その感情を大切にしてね。ケイ」
「これが感情なのか」

 二人で対策について、話し合った。5日間議論したけど、結論は出なかった。
 やはり、危険を冒すしかないのだろうか。ホロチャンバーは、万能なのかと過信していたわ。何でもこれでシミュレーションすれば、うまくいくと思っていた。
 私はふと、ホロプログラムで気分転換してみたいと思い立った。
「ケイ。ホロチャンバーで、遊びましょう」
「エル。いい考えですが、それは無理です。このチャンバーは実験用ですから、娯楽プログラムはインストールされていません」
「でも、地球を再現出来るわよね。現在の地球に行ってみたいわ。太陽の下で、タックを遊ばせてやりたい」
「プログラムは30年前の地球ですが、再現するだけなら出来ます。地球丸ごとは無理なので、行動範囲は限られますが」

 ホロチャンバー内に投影された地球は、私が知っている時代の光景とは違っていた。想像していたものとも、まったく違ったわ。人類の多くが、テラフォーミングされた火星に移住して、地球環境そのものさえも、火星開拓の技術を応用して再生しているなんて。私の想像を超える未来の姿がそこにあった。
 ケイは故郷のアリゾナのフェニックスの街を案内してくれた。私がいた頃の面影なんかなく、郊外の砂漠が緑で溢れかえっていることに驚いた。

「ケイ。あなたにはこの世界が、どのように見えているの?」
「質問の意味がよくわかりません。エルと同じものを見ているのですから」
「私に感情が無かった時、世界はこんなに素晴らしく見えてなかったのに、今は・・・」
「懐かしいという感情ですか?」
「そうじゃない。考え方とか、世界観とか、そんなんじゃない。感動を表現する方法があるなら、本当に知りたいわ」