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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 「SOSの子守唄」

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第二話 名前



 名前。
気にしたことが無い。
私の船の名前さえ、考えたことも無い。

 なぜなのだろう。人には必ず名前があるのに、どうして私には名前が無いの?
私が人間では無いから?
そう。私は人では無い。

 W-159Kは、自分がアンドロイドであるということを自覚しているのに、私は自分が何者であるのか、疑問に思ったことなんて無かった。それはずっと、一人だったから?

「この猫には、名前がありますか?」
「名前は付けていないの」
「どうしてですか?」
「必要だと思わなかったから」
「では、この猫の存在価値は何ですか?」
「存在価値?」
「置物ですか?」
「置物?」
「部屋を飾るための置物には、名前が要りません」
「そうじゃないわ。友達よ」
「では、名前が必要です」
「・・・。そうね。考えておくわ」

 私の存在価値とは、何なのだろう。

 立ち寄った新型船から、新しい設備が導入出来て、W-159Kがいることで、開拓も飛躍的に進めることが出来そう。まず農場の動物のために、サンルームを作りたい。今、私が欲しいのはガラスね。その為、以前から使っていた作業室を拡張して、工場を建設する必要がある。大掛かりな作業にも新しい重機が役に立ってくれるに違いない。その中には、操縦者が装着する外骨格式のライトローダーもあって、重量物作業に使い勝手がいい。

 この星の体積や質量は地球より小さい。つまり重力は10%ほども弱い。そのせいで、農場に植えたリンゴの木は、高く伸びて、6メートルある天井にぶつかりそうなの。
 天井を取っ払って、外に出してもこの木は育つだろうか。
 理論的には問題ないはずよ。外気には植物に必要な炭酸ガスが豊富に含まれるのだから。でも以前、花を外に植えてみたらすぐに枯れてしまった。気圧が低く、乾燥が激しいみたい。

 W-159Kが、ある提案をしてくれた。
「ラボのホログラム・チャンバーを利用して、この星の環境での植物の生育を、シミュレーションしてはどうでしょう」
「ホロチャンバーがあるの?」
 それは昔、私が太陽系を旅立つ前に、宇宙の苛酷な環境を再現して訓練していた、3Dバーチャル空間のようなもの。今では、その映像を実際に触ったり、食べたりも出来る超現実空間として、科学ラボの常識らしい。

 W-159Kは優れている。私よりずっと後に製造されているのだから、進化した思考をしているらしい。私は何か不安な気持ちになった。劣等感。きっと能力の差を実感することになるだろう。
「私たちにも名前が必要だと思います」
「名前なんてどうやって付ければいいの?」
「難しい質問ですが、簡単とも言えます。私があなたに名前を付けましょう」
「名付けるのが得意なの?」
「そうではありませんが、人間も自分の名前は、他人に決めてもらうものですから」
「そういうものなの。じゃ、任せるわ」

「エル」

「え?」
「マニュファクチャー番号の最後の一文字から取りました」
「『L(エル)』。素敵。とても嬉しいわ。じゃ、あなたは『K(ケイ)』よ」
「嬉しいと言いましたか?」
「ええ。私の名前。気に入ったわ」
「あなたには、感情があるのですか?」
「ええ。いろいろ感じることが出来るの」
「すばらしい。プロトタイプには機能制限がないのですね」
「あなたの名前は気に入ったかしら?」
「はい。理解しました」
「理解じゃなく。感じてほしいの」
「それは不可能です」
「いいえ。あなたもきっと、感じることが出来るはず」

 その後、二人で話し合って決めたのは猫の名前。とても難しかったわ。なかなか意見が一致しないのだもの。
 結局、32時間を費やして、私たちが納得した名前は、『タック』。CATを逆さから読んだだけ。提案したのはケイだけど、そのアイデアに私は笑ってしまった。

 ケイは論理的に動く。タックの自由奔放な行動を、計算しようといつも観察している。ケイの話だと、私の行動の半分は予測不可能。それは人間の行動にとても似ているらしい。どうして私には、人間性がプログラムされていたのか。それは、ケイにも分らない。遥か彼方の知的生命体に、人間というものを理解させるために、身代わりとして私が必要だったというの? 危険なミッションにアンドロイドを送るというのは理解出来る。だとすれば、私は使い捨てだったのね。

 一人で船に乗っていた時は、感情と言ってもマイナスのことしか感じていなかった気がする。それは与えられた任務をこなすだけの日々だったから。新型船で来たクルーたちも、仕事をこなす毎日で、感情が希薄になりつつあったのね。
 でも私は、この星に来て、希望や楽しみを知った。自分の意思で何かをするということは、とても意味のあることなんじゃないかしら。