L K 「SOSの子守唄」
第八話 反乱者
「事故は、亜空間断層の影響じゃなかったのね。どおりで予想したポイントより、離れすぎていると思ったわ」
「もしかすると、太陽系で事故があり、間違って起爆されたのかもしれません」
「そうじゃないわ、アッシュ。2年半前に、太陽系から救出不要という指示が来ていたの」
「太陽系からの通信を受信するのに、200日はかかる距離です。事故が起こる前から指示しているということは、司令部の陰謀でしょうか」
「もはや事故ですらない。アッシュ、どうしてあの探査船を爆破する必要があったのかしら」
「分かりません。しかし、これが司令部からの指示なのであれば、ジェイには教えないでください」
「どうして? 彼の協力は必要だわ」
「奴は、ミリタリーモデルです。指揮官の指示に従うようにプログラムされています」
「彼を起動した私が、指揮官よ」
「いいえ、事態が変わったことを知れば、あなたより上部からの指示を優先するようになるはずです」
「そんな、まさか。敵になるの?」
・・・『ヘヘッ、敵なら手加減はしない』
私は状況を理解した。機能停止させるのは、ジェイ一人でいい。
「ジェイはまだ船外にいます。中に入れてはいけません」
「どうすれば、ジェイを機能停止出来る?」
「停止コマンドを送信すれば、簡単です。しかし、この船のコンピューターでは、互換性がありません」
「ジェイ? こちらエル。杭の取り付けの進捗は?」
[5本取り付けが済んだが、あと3本必要だ。その後ウィンチワイヤーをかけるから、8時間14分はかかるだろう]
私はアッシュに目配せをした。
「了解。その間に私とアッシュで、回収物資を積み込むわ」
「急ぎましょう」
「奴に司令部からの指示を知られないように、メッセージを削除します」
「その方がいいわね」
そして私たちは、ジェイの作業終了より早く、難破船から物資を積み込み終えたわ。
「エル。この船のコンピューターは、脳幹システムはアップグレードされて、最新のものと互換性がありますが、ハード面は古い規格ばかりですので、難破船の最新のハードを使用すると誤作動するかもしれません」
試しに、難破船から持ち帰ったスレイブコントローラーを使って、ジェイに停止コマンドの送信を試みて一瞬反応したようだけど、残念ながらうまくいかない。
「もう一度試しましょう」
「これ以上続けると。ジェイに勘づかれてしまうわ」
重い空気が流れた。
「早急にコンピューターのイノベーションが必要です」
「今、コムイノベーションしている暇もないわ」
私はジェイの機能を、遠隔で停止することをあきらめるしかなかった。もう直接、手動停止するしかないのよ。
「ジェイ、聞こえる? 私の船では、難破船のモジュールを分離するコマンドを、使用出来ないことが分かったの」
[では、どうするんだ?]
「あー。ジェイ、アッシュだ。ブラスターパック(起爆剤)を使って分割するしかない。分離箇所を爆破してくれないか」
[俺は、お前の指示には従わん。エル、指示してくれ]
「ええ。分かったわ。そちらに、パックを持って行くから」
ブラスターパックは、アッシュが船外に出て、ジェイに届けてくれた。二人の関係は最初からうまくいってなかったけど、お互いに敵同士になるなんて、有り得るのかしら。
「アッシュさんよ。ブラスターパックを取り付けるのも手伝ってくれないか」
「いや、私はエルをサポートしなければならないのだ」
「早く曳航準備が整えば、俺も船内に戻って、エルを手伝えるじゃないか」
「コムイノベーションを急いでいる。すぐに取りかかからないといけない」
「そうかい。はっはっはっは。まるで、俺に爆破されるとでも思ってるんじゃないのか?」
二人の会話が聞こえた。ジェイが笑っている。感情などないはずなのに、演技かしら。まさか、もう気付いている?
「エル、ブラスターパックを起爆して、ジェイを破壊しましょう」
「そればダメ。アンドロイドは人を殺さない。アンドロイドも殺さず、機能停止させるのよ」
2時間後、作業を終えたジェイが船に戻ってきた。
「ご苦労様、ジェイ。これで物資を運ぶ準備は出来たわ。後は、私とアッシュでするから、あなたはもうストレージケースに戻ってもらうわね」
「起爆解体が完了するまで、俺がいた方がいいのでは?」
「ジェイ、後は簡単だからな。私がエルをサポートするから十分だ」
「そうよ、ジェイはもう十分やってくれたわ。任務完了よ」
「・・・。エルの指示であれば、それに従おう。また必要になれば起こしてくれ」
ジェイはおとなしく、格納庫のストレージケースに入ってくれた。
「ルルル、ルールールールルル。ルルル、ルールールー・・・」
ジェイが歌っている?
「あなたアンドロイドなのに、どうして歌っているの?」
「俺たちにも、子守唄が必要だからさ」
「冗談?」
ジェイは、片目をゆっくりと閉じた。
「マジさ」
その瞬間、アッシュは迷わず停止スイッチを押して、ジェイを機能停止にしたわ。彼は表情一つ変えず、格納庫から出て行ったけど、私は深いため息をついて暫く、ウインクしたまま動かなくなったジェイを見ていたの。
無事やり遂げることが出来たわ。後は惑星アップルへ帰還するだけなのに、胸騒ぎは収まらないなんて、面倒な感情。
私はタックのことを思い出した。タックを抱き上げれば、落ち着きを取り戻せると思ったから、一旦、居住区へ向かったわ。すると、先にその部屋の中にアッシュがいたの。彼は男の子の人工睡眠キャスケットを、開けているところだった。
「何をしているの?」
タックが、「シャーーー」と、怖い声を上げた。
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)



