L K 「SOSの子守唄」
第七話 セカンドロイド
難破船に残っていたエタニチウムの量は僅かだけど、私の船ならそれでなんとか、惑星アップルまで帰ることが出来る。でも、大きな荷物を背負っては、あまり速度は出せない。出来ることならその船の全部を持ち帰りたいけど、私の船では、この質量を曳航して帰るだけのパワーはなかったの。だから難破船を小さく分割して、格納庫と必要な部分だけ持ち帰ることにしたわ。
ジェイは、船外に出て難破船に曳航用の杭を取り付けている。そこにトラクターウィンチのワイヤーをかけて引っ張って帰るの。物理的に不安定な航行になるけど、エネルギーが足りないせいで、安定した牽引ビームを長距離移動に使えないから。それで、こっちの船体剛性には不安があるから、あの船のエネルギー防壁のシステムも移植しておきたい。
私は難破船にたくさんあったライトローダー(外骨格型重機)を操縦して、この船から使えそうな設備を取り外し、自分の船の格納庫に移している。その作業を手伝ってくれているのは、生存者のアッシュ。彼を目覚めさせた時、意外なことが分かったわ。
「しっかりして。私はエル。彼はジェイ。救助に来たの。もう大丈夫よ」
「俺はアッシュ・・・失礼しました。私は『Ash(アッシュ)』です」
「どうしたのアッシュ。かしこまらなくてもいいわ」
「いえ。あなたは私より階級が上ですから」
彼は敬礼した。この船のクルーと初めて会った時、皆がしたように。
「どうしてそんなことが判るの?」
「私はSS3200型です。あなたの型式やマニュファクチャー番号、階級も読み取れますので」
「あなたもアンドロイドだったの」
ケイも私のマニュファクチャー番号を言い当てていたわ。
「エル。最新型の32(サンニー)様っていうのは、人間に究極に似せて作られているんだ」
ジェイはSS3200型が好きじゃないらしい。
「お前はSS3100型だ。階級も私より下のようだが、ミリタリーモデルは指揮官の言うことしか聞かないからな」
「その通り、俺に指示する時は、エルを通せ」
「やめなさい。二人とも」
「はい。あなたはSS3000プロトタイプですね。実物にお目にかかるのは初めてです。見た目は人間ですが、SS3100と同じく骨格より内部はメカニカルな構成になっていますね」
「やめて、もういいわ。私は事故の原因を知りたいの」
「はい。緊急警報が鳴った時、既に自爆シーケンスが作動していました」
「自爆したって言うの?」
「そうです。警報にリンクして、情報を確認しようとしましたが、どういう訳か厳重にプロテクトがかけられていて、その時には解除出来ませんでした」
「船長はどうしたの?」
「クルー全員に、人工睡眠キャスケットに入るように指示された後は分かりません。でも、船のコンピューターログを解析すれば、すべて解明出来ると思います」
「システム・バックアップ・ログならこの船に転送済みよ。すぐにやってちょうだい」
「分かりました」
「それと、この子供のキャスケット内から聞こえる音はSOSみたいだけど、ミュージックよね」
「そうです。大昔の娯楽の一つです。ルルル、ルールールールルル。モールス信号のSOSに似ていますが、この旋律は“子守唄”と呼ばれるものです」
「子守唄?」
「人間が子供を寝かせつける時に聞かせる、鎮静作用のあるミュージックです」
「人間の感情に働きかける音? この子は人間だから、きっと怖かったのね」
「いいえ、エル。それは違います。怖がってはいましたが、この男の子もアンドロイドです」
「どうして、子供のアンドロイドなんかがいるの?」
「この旅航中に、生まれたのです」
「アンドロイドが生まれる? どういう意味で言っているの?」
「文字通り、私たちから生まれた“セカンドロイド”です」
私は驚いた。SS3200型には生殖機能も備わっているというのか。しかも、その子供には、感情があるらしい。
「でもセカンドロイドは皆、欠陥品です。その感情をコントロール出来ません」
「感情をコントロールするのは、難しいのよ。太陽系には、たくさんセカンドロイドが生まれているの?」
「私たちが出航する前には、ごく僅かの機体のみでしたが、以降の30年間にどれぐらい増えているかは、想像するしかありません」
今、私は混乱しているようだわ。感情を理解し始めたとは言え、私自身、本物の人間の感情を知っているわけじゃないから、アンドロイドに感情が芽生えても、どんなふうにそれを育めばいいのか分からない。人間ならそれが分かるんじゃないのかしら。
「教えてちょうだい。あの船には、人間は何人乗っていたの?」
「いいえ、外宇宙のミッションですから、あの船のクルーは、全員アンドロイドです」
「そうだったの。ジェイはこのことを知っていたの?」
「俺は、起動されたばかりだから、そんな事情は知っちゃいねえよ」
なんてこと? まるで、人間そっくりだから分からなかったわ。ケイも知らなかったはずよね。太陽系司令部から、詳しい情報が提供されていないから、私が知ってる時代とは、かなり状況が違ってるわね。
ケイのアドバイスが必要だわ。彼なら科学的見識で、私を安心させてくれる。
私はここで、ようやくケイに連絡を取る時間が持てた。こちらの状況と、セカンドロイドの驚きの事実を報告したけど、ケイ自身もSS3200型アンドロイドだから、何も驚くはずはないのね。このメッセージがアップルに届いて、返事が返ってくるのに、先進波通信と言えど、3日はかかるわね。
そうしていると、私宛の太陽系からのメッセージを、受信していたことに気付いた。ケイのメッセージばかり気を取られて、見落としてしまっていたわ。やりたいことを優先して、その他の作業をそっちのけにする、私の悪いクセね。そのメッセージは、アップルを出発した後、すぐに受信していたようだわ。
『新型探査船の救難信号は誤報である可能性が高い。事実としても危険であるゆえ、無視せよ。既に救助を開始している場合、アンドロイドはすべて、機能停止させよ』
助けるなってこと?
疑問・・・
司令部は私が疑問を持つことはないと思っているだろうけど、この指示は不可解だわ。どうして見捨てるの?
*ピピピピ!(呼び出し音)
[エル、こちらアッシュ。とんでもない事実が解りました。自爆シーケンスは、太陽系から遠隔操作で起爆されていました]
やはり、何かあるわね。
私は今、すぐに動くべきか、じっとして考えるべきか迷っている。これは胸騒ぎというものに違いない。
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)



