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第三章 策謀の渦の中へ

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 散々、小馬鹿にされてきたという思いから、リュイセンは挑発的に声を荒らげた。しかし、〈蝿(ムスカ)〉は、それをさらりと受け流す。
「そう捉えてくださって構いませんよ。実際、力ではあなたのほうが上でした――私は本来、表立って戦う者ではありません。あなたの土俵で戦うのは、愚かなこと。それだけです」
 リュイセンの戸惑いを楽しむかのように、〈蝿(ムスカ)〉は、ふっと、口元を緩めた。
「私の本分は医者ですよ」
 意外な言葉に、リュイセンの声が一瞬、詰まる。だが、すぐに調子を取り戻し、応酬した。
「……随分と血なまぐさい医者がいたもんだな」
「ええ。人体を知り尽くした医者です。人によっては、私のことを暗殺者とも呼びますけどね」
 リュイセインが眉を寄せ、そして、今まで黙って様子を窺っていたルイフォンに緊張が走る。
 そんな彼らの様子を確認した〈蝿(ムスカ)〉は、不気味な笑いを口元に乗せ、満足したように踵を返した。そして、そのまま無防備に背中を晒したまま路地を出て行く。追撃を受ける可能性など、まるでないと確信しているかのように――。
「おい……」
 待てよ、と言いかけて、リュイセンは口をつぐんだ。相手の言いなりのようで非常に癪に障るが、今、〈蝿(ムスカ)〉を引き止めることは建設的ではない。

 残るは、斑目タオロン――。


作品名:第三章 策謀の渦の中へ 作家名:NaN