第一章 桜の降る日に
目を丸くするメイシアをよそに、扉が小さな機械音を立ててスライドし、道が開かれる。
「さあ、どうぞお入りください」
執事が部屋に入り、にこやかにメイシアを招いた。
立ちすくむメイシアの手をミンウェイがそっと引く。メイシアは、はっとして背筋を伸ばした。中からこちらを窺う執事に向かって頭を下げ、礼を述べた。
「案内、どうもありがとうございました」
言いながら違和感を覚えたが、今はのろのろとしている場合ではない。メイシアは前のめりになりながら部屋に入り、ミンウェイも続いた。
すぐに背後で扉が閉まり、かすかな施錠の音が聞こえる。
「ようこそ」
若々しいテノールがメイシアを迎えた。
部屋の奥に大きな執務机。声の主は机に両肘をつき、組んだ両手に顎を載せていた。
「俺は鷹刀イーレオの末子、鷹刀ルイフォン。親父は六十五歳という高齢なんで、接客は体に障る。というわけで、俺が代わりに話を聞くことになった」
獲物を前にした猫のように彼は嗤った。端整といってよい顔立ちは、その表情によって台無しになっていた。
クッションのきいた椅子を軋ませ、彼は立ち上がる。
やや猫背気味。髪は後ろで一本に編んでいて、先を青い飾り紐で留めていた。その中央には金色の鈴。
どこか特徴のある動きをしながら彼はメイシアに近づき、右手を出した。
その骨格は決してひ弱ではないけれども、どう見ても少年の域を出ない――メイシアと同年代のそれであった。
作品名:第一章 桜の降る日に 作家名:NaN