小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ヒトサシユビの森 5.ヒトサシユビ

INDEX|5ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


茂木は乗用車を運転して石束署に向かった。
家族を失うことは心残りだったが、事件の全容を警察に話し、罪を償うつもりだった。
仕事も信用も失い、長い獄中生活を送る覚悟はできていた。
警察署の建物が見える用水路沿いの四ツ辻にさしかかったとき、交差する道路を横切って一台のクラウンが茂木の行く手を阻むように停止した。
クラウンからおもむろに降りてきたのは蛭間であった。
驚く茂木を後目に、蛭間は平然と茂木の車の後部座席に乗りこんだ。
「どこへ行くつもりだ、茂木先生」
「健ちゃん、もう無理だ」
茂木は額に滴るほどの汗をかいていた。ルームミラーに映る茂木に後部座席の蛭間が話しかけた。
「何が無理なの? 言ってみ」
「子どもの指が、子どもの指が・・・」
「ガキの指がどうしたって? 切り落として蛆虫の餌食にしたろ」
「それが見えるんだよ」
「ざけんじゃねえ! そんなもん見えるわけねえだろ」
「健ちゃん、ごめんよ。僕には耐えられないんだ」
「お前のメンタルが弱いのはお前の勝手だ。何を見ようが知ったこっちゃねえ。だがな、俺たちを巻きこむんじゃねえよ」
蛭間は隠し持っていたロープで茂木の首を絞めた。
「何するの、健ちゃん。苦しいよ」
「すまんな、茂木。お前の嫁と子どもは俺が面倒みてやるよ」
蛭間はロープの端をヘッドレストに結わえ、虫の息の茂木を車外に蹴りだした。
脱げた茂木の革靴の片方が用水路に落ちて流れに中に浮かびあがった。
車の側面に寄りかかり、だらりとおろした茂木の手足がぴくっと痙攣した。
そして茂木は静かに目を閉じた。
用水路に足首を浸した状態の縊死体が見つかったのは、それから数時間後のことであった。