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ヒトサシユビの森 5.ヒトサシユビ

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カラの洗濯かごを手に麻美は、2階の廊下をゆっくり後ずさりした。
「ねえ、あなた。この家、何かいる。私の目の前に」
茂木は階下から麻美を見上げた。
「何もいやしないよ、麻美」
茂木の声が震えた。
「一度目を閉じなさい。そしたらいなくなるから」
茂木の言った通り、目を閉じてあらためて目を開く麻美。
「きゃっ!」
片手で目の前の何かを追い払う麻美のスリッパが、階段の端からはみ出した。
バランスを崩せば階段から転げ落ちる体勢だ。
「わかった、わかったからやめてくれ」
茂木は階段の下で得体の知れないものに向かって嘆願した。
麻美は大きなお腹を庇いながら階段の縁に立った。
「あなた、誰かいるの?」
麻美にはまだぼんやりとしか見えていない。
だが、茂木の目には麻美の背後に浮遊する”何か”がはっきり見えた。
「やめてくれ、お願いだ・・・。妻は関係ない」
「あなた、泣いてるの?」
「僕のせいだ。僕が弱かったから・・・」
「どうしたの? 何かあったの?」
「ごめんよ、麻美。君とずっと一緒にいたかった・・・」
茂木は麻美を見つめたまま、こぼれる涙を止めることができなかった。