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ヒトサシユビの森 5.ヒトサシユビ

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もの心ついたときから、貧しい家庭だった。
雪乃は若い頃は宝飾デザイナーとして都会で働いていた。
いい時代もあったが長くは続かず、幼いかざねを連れて石束に移り住んだ。石束では、サクランボを作る農家に転身した。
農業経験のない雪乃には賭けであった。出荷できる果実が実るまでに数年かかった。
子どもを育てながらの農作業だった。
その間に多額の借金がかさみ、かざねは貧しい少女時代を過ごした。
母子喧嘩が絶えなかった。思春期には何度も家出を繰り返して、雪乃を困らせた。
そしてある日、乳飲み子だったさちやを初めて家に連れ帰ったとき、雪乃はかざねに言った。
「お前の子どもかい? だったら私の孫だね・・・」
そのときの雪乃の優しい笑顔が忘れられない。
かざねは目を閉じて、雪乃に永遠の別れを告げた。
ありがとう、母さん。・・・さようなら・・・。
頬を突かれた。柔らかい小さな指先で、優しく頬を突かれた気がした。
さちや・・・さちや・・・と呟いている自分に驚いて、かざねは目を見開いた。
目に映るものといえば、輪郭のぼやけた岩と森だけだ。
身体中が痛む。ここがどこだかわからない。
自分がなぜこんなところにいるのか思いだせない。
かざねは周囲の風景にも目を凝らした。森の樹木の形状がひとつひとつ影となって粒だって見えてきた。
その木立の間に、ぼんやりと浮かぶ小さな人の形を見たとき、これまでのすべての出来事の記憶がかざねの脳裏にあふれた。そしてかざねは大声で叫んだ。
いぶきぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!