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ヒトサシユビの森 5.ヒトサシユビ

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森を歩き進むうちにかざねは方角がわからなくなった。
コンパスも地図もあるが、肝心の自分の位置がかわからない。
小屋はすぐ近くにあると感じているのに辿りつけない。
かざねはもどかしい思いを、踏み出すたびに足先に痛みを引き起こすパンプスにぶつけた。
パンプスを脱いで林の中に放りなげた。
それでも気が焦るばかりで、妙案は浮かんでこず、混乱する頭をクールダウンさせようと、かざねは膝をつき、周囲に注意を集中した。
森は静寂に包まれていた。
けれどもよく耳を澄ますと風や葉擦れ以外の物音が聞こえた。
動物の鳴き声ではない。金属がぶつかるような作為的な物音だ。
だとすれば、それは小屋からのものしかありえない。
ただそれがどの方角から聞こえてくるのか、かざねは判断できなかった。
あらゆる方向に音源があるように聞こえたのだ。
かざねはとりあえず立ち上がって、どの方向と定めず一歩を踏みだした。
二歩目、三歩目を踏みだしたとき、足の下で小枝が折れる音がした。
かと思うと、かざねは「痛い!」と叫びながらもんどりうって地面に倒れこんた。
足の裏に折れた小枝がトゲとなって突き刺さっていた。
かざねは痛みをこらえながらトゲを抜いた。裸足なのだから仕方ないと言い聞かせて、立ち上がろうとしたとき、前方の地面に小さな灰色の物体が目に入った。
かざねが懐中電灯の灯りでそれを照らした。朱が混じった微妙な色彩をしていて、昆虫の平均的な大きさよりは大きく見えた。
光を当ててもそれは反応しなかった。
かざねは、足元を確かめながら、ゆっくりとそれに近づいた。
灯りの下でよく見ると、それは落葉に埋もれたウルトラマンのフィギュアだった。
落葉をかき分けウルトラマンを手にしたかざねは、まじまじとそれを見つめた。
それはかつてかざねがさちやに買い与えたものと同じタイプ。
なぜここにウルトラマンのフィギュアがという疑問より先に、かざねの脳裏をかすめたのはある確信だった。
この先に、いぶきがいる。
かざねはうす汚れたウルトラマンのフィギュアを胸に抱いたまま、足の裏が傷だらけになるのも構わず、森の中を信じた方向へと突き抜けた。