Plin
本当はこのタイミングでけしかけるつもりだった、楽屋やレストランでプロポーズするなんて男らしくない、プリンはライブハウスのステージで田中への愛をおおっぴらにした、田中もそうするべきだと……もうその必要もなくなったのだが。
「プリン、いや、由子、俺と結婚してくれないか?」
田中が片膝をついて指輪を差し出すと、プリンは顔をくしゃくしゃにしてステージから飛び降り、それを合図にバンドが『The Rose』を奏で始めた。
これこそ宮川が開演ぎりぎりになった理由、早めに会場に来て楽屋を訪ね、プリンが着替えの為に中座した隙にバンドに頼んだのだ、『ステージが終わったら田中をけしかけるから、その時はあの曲を演奏してやって欲しい……』と。
最初は何が起きたのかわからなかった聴衆も、事情を飲み込むと暖かい拍手で抱き合う二人を包み込み、リーダーの先導で『The Rose』を合唱し始めた。
♪Its the heart, afraid of breaking
That never learns to dance
Its the dream, afraid of waking
That never takes the chance
Its the one who wont be taken
Who cannot seem to give
And the soul, afraid of dying
That never learns to live♪
まるで正反対のように見える人生を歩んで来た二人。
だからこそ、お互いがお互いをより強く必要とし、より強く惹かれ合った。
そして、これからの人生で支えあうのに最良の人とめぐり合えたのだ。
プリンはもう迷わない、確かな導きの灯火を見つけたから。
田中はもう傷つくことを恐れない、何も求めなければ何も得る事は出来ないと知ったから。
あの留置場で二人の間に宿った小さな種子は、今美しい花を咲かせ、そのかぐわしい香りを、その場に居合わせた人々に惜しみなく分け与えていた……。
終