小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

HIKARU GENJI 2017

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

「何か言葉遣いも変わっちゃって……なんかカッコよかったよ」
「そりゃどうも」
「あんた、本当に光源氏なら、凄くモテるんだよね?」
「そうでもない、結婚してるしさ」
「マジ? その若さで?」
 『光源氏……と名乗る男』はもう止めなければならない、どうやら本物らしいし……そうだ、古典で習ったのはすっかり忘れたけど、漫画で読んだ覚えがある、確か12歳で結婚させられているはず……。
「だけどさ、千年後だとあんたは色男の代表って言うか、日本史上最高の美男って事になってるんだけどな」
 まあ、よくよく見れば、かなりのイケメンではある、千年に一人の美男子、と言うには程遠い気がするけれど……。
「今の世の中、あんたから見れば千年前だけどさ、貴族社会じゃ和歌が上手くねぇといい男、いい女って認められねぇんだよ、俺はちょっと、ってか、だいぶ苦手でさ」
「そう? 光源氏って言えば歌道でも……」
 そうか、と合点が行った。
「ありゃ、後世の作家の創作だなぁ」
「創作?」
「光源氏、つまりあんたをいい男に仕立て上げる為にさ、後世の作家が上手な和歌を作って、あんたが詠んだことにしたんだよ、きっと」
「ふ~ん、千年後だと、俺もいっぱしの歌人になってるわけだ」
「と言うことは、よ」
「何?」
「ホントにあんたが詠んじゃえば良い事じゃん」
「どういうこと?」
「あたしがさ、向こうに戻って本を買ってきてあげるよ、あんたがその和歌を、さも自分が考えたみたいに詠んでも、パクったってことにはならないんじゃない?」
「それ、いいのかな、著作権侵害とかで訴えられねぇ?」
「道義的な善し悪しは別にして、バレる心配はないよね」
「そうか、どうせ俺が詠んだことになってるんだもんな……」
「やっちゃう?」
「やっちゃおうか……いいのかな? 頼んでも」
「ミレニアム・イケメンが台無しになると、日本が誇る古典文学の傑作が消滅しかねないからね、一肌脱ごうじゃないの」
「サンキュー!」
「もう! なんであんたが英語知ってんのよ!!」

 まあ、それはそれとして……。

 2016年に戻った重美は本屋に走る。
「良かった、ちゃんとある……」
 自分が時空を越えて光源氏と接触した事で、古典文学に影響が出るのではないかと心配していたのだ。
 しばし考えた末に、古文版と漫画版を買い、ロッカーの鏡の前へ。

「源氏~、そこにいる?」
「ああ、いるよ」
「今からそっちへ行くね」
「本だけで良いんじゃね?」
「あ、こら、恩人を邪険にするな!」
「いや、そんなつもりはないけどさ、また下敷きになるのはちょっとなぁ」
「つべこべ言わない! うっ………………笑って見てないで引っ張りなさいよ」
「だからそこは抜けられないって言ったじゃんよ」
「引っ張ってもらえば抜けられるんだから、手を貸しなさいよ」
「しょうがねぇなぁ……ぐえっ」
「あんたも学習しないね」
「そう言うことは俺の上から降りてから言ってくれよ……ああ、苦しかった」
「少し身体を鍛えた方が良いわよ」
「こう見えても、蹴鞠なら得意だぜ」
「蹴鞠って?」
「サッカーのリフティングみたいなやつ」
「また英語を……それに、そもそも千年前にサッカーってあったの?」
 突っ込みどころは一旦置くとして、確かTVでそんなシーンを見たことがあった様な……。
「どっち読む?」
「おお、二種類持って来てくれたのか……断然こっちだな」
「そうだと思った……まあ、あたしも漫画版しか読む気しないけどね」
「だけどさ、これが俺か? 自分で見ても美化されすぎだと思うね」
「ん?……ちょっと顔をこっちに向けて」
「いてて、首がねじ切れる」
「大げさな……ふ~ん、そうか、そう言うことだったのね」
「なんだよ」
「今度はあんたがこっちに来る番」
「こっちって、千年後に?」
「そう言うこと」
「いいね! ゆうべはあの殺風景な部屋から一歩も出なかったからな、千年後の世の中も見てみたいよ」
「と言ってもねぇ……その格好で出歩くわけにも行かないよね」
「コスプレと間違えてくれないかな?」
「またまた英語を……まあ、それはそれとして、コスプレにしたらリアリティありすぎだからね、でも店の中なら大丈夫、夜中は誰もいないから」
「店って、何の店?」
「ドラッグストア」
「何だ? それ」
「さすがに知らないか、まぁ、来てみればわかるよ、さ、行った行った」
「ちょっと待って」
「何よ」
「今度はそっちが先に行ってくんねぇ? また下敷きになるのはちょっと……」


「へぇ、千年後ってのは、やっぱ凄ぇな、見たこともないもんばっかりだ」
「でしょうね」
 重美は鼻を押さえながら不機嫌に言う。
 やはりお尻でつっかえて光源氏にお尻を押してもらい、ようやく抜けた勢いで思い切りモルタルむき出しの床に鼻を打ちつけてしまったのだ、ただでさえ団子鼻を気にしているのに、すりむけて真っ赤になっている、これはもう、二~三日は人前に出られそうにない……。

「ちょっとこっちに来て、鏡の前に座って」
「この鏡、大丈夫かなぁ」
「いつも使ってる鏡よ、魔力はないわよ」
「いつも使ってる?」
「あたしはね、化粧品担当なのよ、この鏡の前でオバサンを変身させて化粧品を売りつけてるわけ」
「ふぅん……平安の世でも、女は化粧するぜ」
「男も白塗りしたり、丸い眉毛描いたりしてるじゃん」
「まぁね、オジンはそうやって若く見せようとしてるけどな」
「あんたね、さすがにミレニアム・イケメンと呼ばれるだけあって、地は良いよ、化粧栄えすると思うな、あたしの目に狂いはないんだから、任せて」
「ああ、それは良いけど……」
「じゃ、まず化粧水で肌を引き締めて……と……」

 30分経過……

「出来上がり! おお、いいじゃん! いいじゃん!」
「へぇ、凄ぇな、俺、こんなにいい男だったんだ」
「うん、これならミレニアム・イケメンの名に恥じないね」
「この顔とあの和歌があれば、確かにモテそうな気がして来たよ」
「もう一押し、最後の仕上げに、シュシュっと……」
「お、何? これ? 凄ぇ良い匂い」
「香水というものだよ源氏君、香を焚き込めるより官能的な香りでしょ?」
「ああ、これなら、女はフラッとするかも」
「今夜、忍んじゃう? 憧れの藤壺のお部屋に」
「行っちゃおうか」
「行っちゃえ、行っちゃえ」
「あのさ……色々ありがとうな……重いとか不美人とか色々言って悪かったよ……ホント、ゴメン」
「うん?……まぁ、分かればいいのよ、分かれば」
「でさ、俺、やり方見てて大体覚えたからさ、その化粧品っての? 一式貰って行って良いかなぁ」
「ああ、良いわよ」
「金なら持ってるからさ……って、この時代じゃ通用しないか」
「まぁ、そうだね」
「じゃあ、絹織物とか持って来るからさ、物々交換ってことで」
「千年前の物を持っててもねぇ……売りさばくわけには行かないよ、見る人が見れば現代のものじゃないって判るかも知れないでしょ、それでもし科学鑑定とかされたら大騒ぎになるよ」
「それじゃ、どうしたらいい?」
「まあ、いいよ、この重美さんは結構稼ぎが良いんだよ、史上ナンバーワンの色男に貢いだと思えば悪い気はしないからさ」
作品名:HIKARU GENJI 2017 作家名:ST