ありふれた恋の物語
ドアの隣に置かれた自動販売機とは対極の位置に置かれたベンチに座り、屋上から見えるただの町並みを眺める。
たった2週間ほど入院しているだけなのに、自分が目の前に見える町で暮らしていたと実感することができない。
どれほど時間がったのだろうか、惚けるように空を眺めていると、唐突に屋上のドアが開いた。
音にびっくりして扉の方を見ると、短い髪の毛を風になびかせる一人の女の子が立っていた。
自分と同い年ぐらいの女の子は「あああああ!僕の特等席!」と言って俺を指差す。
これが、俺と彼女が知り合った時の話だ。
正直、最初は彼女のことを男だと思っていた。
女の子にしては高めの身長と低めの声をしており、髪も短く胸も無かった。
極め付けは彼女の一人称だ。彼女は自身のことを「僕」と言う。
多分ほとんどの人間は初めて彼女と知り合った時、男だと判断するだろう。