ありふれた恋の物語
はじめの方は実感がわかず、ひたすらYouTubeなんかで動画を見て過ごしていた。
ほぼ毎日簡易検査をし、数日に一度人工透析をする。現実味のない毎日を送る中で刺激が欲しくなる。
よくよく考えてみれば、最後に外の空気を吸ったのはいつだろうと思う。
こうして俺は、入院してから2週間経った頃、はじめて病院の屋上に訪れた。
少しでも外の景色を見て、少しでも外の空気を吸わなければ、自分が外の世界で生きていたことを忘れてしまいそうだった。
一際薄暗く、錆びの目立つ最上階の階段を登り、屋上の扉に手をかける。
屋上は10畳ほどのスペースに自動販売機とベンチが一つずつあるだけだった。
自動販売機は中に陳列されたサンプルが乱れており、そのほとんどが売り切れという文字を表示していた。
ひび割れたコンクリートの地面を歩き、俺は自動販売機で買った何時のものかもわからないコーヒーを片手にベンチに腰を下ろす。