ありふれた恋の物語
たった数行を読み、息が詰まった。
手紙の一人称は“僕”だった。差出人はいつも屋上で話をしていた彼女だ。
彼女の病状が自分の想像よりも重いこと、彼女が嘘をついていたことを俺はこの時初めて知った。
『それと、僕は手術の日程は決まっていると言いましたが、これは嘘ではないので安心してください。ちゃんと手術はします。あ、手紙を渡してもらうのは手術の後なんだから、ちゃんと手術はしました。かな?』
手紙を読み進めるごとに、俺の心は見えないロープで締め付けられているような錯覚を覚えた。
自らの意思とは関係なく、勝手にパズルが完成していくような感覚があった。
『僕自身は手術で病気を治すことはできません。でも、僕が病気を治してあげることはできます。間接的ではあるけどね。僕にはまだ動いている臓器があります。心臓…はもう無理だけど、腎臓と片方の肺、膵臓、脳…と、これくらいしか思いつかないな(笑)』