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あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

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ライバル

 放課後になり、みなこの姿を探していると、前方から物凄いスピードで走ってくる男の姿が視界に入り込んだ。

「そ、そこの人!どいてくださーい!!」

 男は叫ぶが、咄嗟のことに反応出来ず、強い衝撃が俺を襲った。

「いてぇ……」

 尻餅をついた俺は痛みに耐えながら立ち上がる。
 俺にぶつかってきた男は俺を見ると頭を下げた。

「す、すみません!怪我してないっすか?」

 男は俺より年下で、頭にゴーグルを付けていた。

「怪我はしていないから大丈夫だ。だが、何故廊下を走っていた?」

「……風を、感じたかったからっす」

 予想外の答えに目を見開くと、男は申し訳なさげに言う。

「俺、昔から風が大好きで。風を感じたくてつい走りたくなっちゃうんっす」

「…………」

 変わった奴もいるものだ。
 微妙な気持ちになっていると、「みーくん!」と聞き覚えがある声が聞こえて、みなこが姿を現した。

「もう、みーくん、また誰かにぶつかったの?」

「げ、みなこ。またって何だよまたって」

 みなこが「みーくん」と呼んだ相手は、俺にぶつかった男だった。

(こいつが、みーくんなのか……)

 こんな、風が大好きだとか言うよく分からない奴が俺のライバルだったとはな……。

「あ、みつよしくん!」

 俺に気付いたみなこが声を上げると、俺にぶつかってきた男は「知り合い?」と問い掛けた。

「うん、ちょっとした知り合い。みつよしくん、紹介するよ。こちらがみーくんこと河原充です」

 「よろしくっす」男――河原充が頭を下げる。

「俺は波多野光義。こちらこそよろしくな」

 社交辞令として挨拶を交わすと、顔を上げた河原はにやにやと笑う。

「みつよしくんだなんて、この人はお前の彼氏なのか?」

 彼氏――その言葉にみなこは目を丸くして、ブンブンと首を横に振る。

「彼氏なんかじゃないよ!!みつよしくんはただの知り合いで、彼氏になることなんて絶対にないから!!」

 全力で否定され、内心で凹んでいると、河原は「ふーん?」と返して、俺を見た。

「彼氏じゃないなら、下の名前で呼ばせない方がいいっすよ」

 俺みたいに誤解する奴がいるだろうから。
 河原の言葉に、確かにな……と思い、みなこを見て口を開く。

「俺のことは、波多野先輩って呼んでくれ」

 俺もみなこではなく、小糠と呼ばなければな。

「…………分かった」

 みなこ――小糠は何処か悲しげな顔をして頷く。
 小糠の表情が気になったが、追及はしないことにして、俺は右手を上げて彼らから離れた。