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あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

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再会

「私達、別れましょう」

 女が今にも泣き出しそうな顔で言い、俺はああ、またか。と内心で呟く。

「光義は私のこと好きじゃなかったんでしょう?それなら私と付き合わないでほしかった……!」

 女の悲痛な叫びにめんどくせぇと思っていると、女は散々喚いて去っていった。
 女の姿を見送った俺は、ふぅ、と息を吐く。
 告白してきた女と付き合い別れる。これは珍しいことではなかった。俺は顔も成績も良いから、俺に告白してくる女は幾らでもいた。
 しかし、女と付き合っても、女は決まって別れを告げるのだ。そうなる原因には、一つ心当たりがあった。

(……こぬか、みなこ)

 あの日、幼かった俺が出会った少女の名前を心の中で呟く。 
 あの日から、あの少女の笑顔と名前は俺の中から消えることはなかった。
 あの頃は分からなかったが、今なら分かる。
 俺は、あの少女に恋をしていたのだと。
 あの少女に、惚れていたのだと。
 自覚して、しかしそれは叶わない事実に打ちひしがれた。
 あの少女が幼馴染みの「みーくん」のことが好きなのは明白だった。だから、俺は諦めようと思ったのだが。

(まだ、諦めきれていないのか……?)

 あの少女が今何処にいるのかも分からないのに、まだ諦めることが出来ないのか。
 自嘲して、笑みを消して俯く。
 その時。

「みーくん!待ってよ!!」

 誰かの声が聞こえ、はっとして顔を上げると、一人の少女が俺の前を通り過ぎた。
 その少女の顔に、俺は大きく目を見張る。
 少女の顔は――あの日出会った少女のものと瓜二つだった。
 更に、少女が発したみーくんという言葉。

(――間違いねえ!!)

 確信と共に少女を追い掛ける。
 全力で走り、少女に近付いた俺は、彼女の腕を掴んだ。

「みなこ!!」

 少女の名前を呼ぶと、彼女は驚いたように肩を跳ねさせ、此方に顔を向けた。
 少女の大きな目が俺を捉える。俺はごくりと唾を呑み込んだ。

「…………ええと……どちら様ですか?」

 長い間の後、少女は困ったようにそう言った。
 予想外の言葉に俺は目を見開く。

「お前……俺を覚えていないのか?」

 少女は気まずげに、申し訳なさげに頷く。

(……まあ、随分前だから、仕方ねぇよな……)

 忘れられたのはショックだがそう言い聞かせ、俺は少女の腕から手を離す。

「……波多野光義だ」

「……え?」

「俺の名前だ」

 少女は目を瞬かせ、「はたのみつよし……」と俺の名前を反芻する。

「みつよしって、どこかで……。うーん…………あっ!!」

 「みつよしくん!?」少女が叫んで、大きく目を見開く。

「みつよしくんって、あの時会ったみつよしくん!?」

 俺が頷くと、少女はまじまじと俺を見る。

「みつよしくん、イケメンになったね!背も高くなって……なんかかっこよくなった!」

 少女が思い出してくれたことが、褒めてくれたことが嬉しくて、俺は頭をかく。

「そ、そんなこともねぇけど。……みなこは、可愛くなったな」

 あの時も可愛かったけど。
 何気なく言うと、少女――みなこがピシリと固まる。

「……みなこ?」

「……な、何でもない!」

 みなこが俯いたため、不思議に思ったが、追及はしないことにして、俺は口許を緩める。

「良かったよ、またみなこに出会えて」

 みなことは、もう一生出会えないと思っていた。
 しかし、こうして出会うことができて、本当に良かった。

「……私も……みつよしくんに出会えて良かった」

 みなこが俯いたまま言う。
 みなこが俺と同じ気持ちでいることが嬉しくなって笑みを深めると、みなこは「あ!」と顔を上げた。

「みーくん、どこいったんだろ……」

 キョロキョロ辺りを見回すみなこに、俺は少しムッとして、笑みを消す。

「今でも、そいつのことが好きなのか?」

 問い掛けると、みなこの頬が赤く染まる。
 やっぱりそうか。
 自然と眉が寄るのが分かり、俺は低く問い掛ける。

「みーくんって奴とは付き合っているのか?」

 みなこは首を横に振る。予想外の反応に目を見開くと、みなこは悲しげに言った。

「みーくんは、私のことは妹のように思っているの」

(……片想いだったのか)

 それは、つまり……俺にもチャンスがあるってことなのか?

「……みなこ」

 みなこを真っ直ぐに見据え、両手をぎゅっと握りしめる。

(俺は……お前のことが……)

 キーンコーンカーンコーン

「あ、チャイム!教室に戻らなきゃ!またね、みつよしくん!」

 みなこが右手を上げて去っていく。
 俺はがくりと肩を落とす。

(……告白しそこねたな)

 まあ、これからは幾らでもそのチャンスはあるだろう。同じ学校にいることが分かったのだから。
 みなこが去っていった方向を見て、俺は口許を緩めた。