小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

INDEX|4ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

デート

「みつよ……、波多野先輩、おはようございます!!」

 翌日、教室に向かうと、廊下に小糠が待ち構えていて、俺は驚きに目を見開いた。

「……小糠、おはよう。どうしてお前がここに?」

「波多野先輩に、お願いしたいことがあって……」

「……お願い?」

 小糠は頷き、真剣な表情で話し出す。

「みーくんと、デ……デートがしたいんですけど、二人きりは恥ずかしくて……だから、波多野先輩も同行してくれませんか?」

 思わぬお願いに目を見開くと、小糠は申し訳なさげに頭を下げる。

「こういうことを頼めるのは波多野先輩しかいなくて……お願いします!」

 ……好きな相手のお願いを無下に出来る程、俺は冷酷ではなかった。

「分かった、お前達のデートに付き合えばいいんだろ?」

 小糠はバッと顔を上げて、満面に笑みを広げる。

「ありがとうございます、波多野先輩!」

 小糠の笑顔に胸が脈打つのを感じながら、俺はデートのことを思って息を吐いた。


 小糠と河原(と俺の)デート当日、待ち合わせ場所に行くと、そこには小糠がいた。
 小糠は制服ではなく私服で、水色の上着とピンクのスカートは可愛らしくてよく似合っていた。
 俺を見た小糠は、落胆したような、しかし安堵したような表情を見せて、笑みを浮かべた。

「波多野先輩、来てくれて良かったです」

「……河原はまだ来てないのか?」

 小糠は目を伏せて、「……はい」と頷く。

「まあ、まだ待ち合わせ10分前だからな。河原が来るのを待とうぜ」

 小糠の隣に立ち、河原が来るのを待つ。

 待ち合わせ時間になっても河原は来ず、小糠が俯くと、ピピピピと携帯が鳴る音がした。

「私の携帯ですね……みーくんからです!」

 小糠が携帯を耳にあてて、暫くして目を見張り、携帯を閉じる。

「……河原は、何て?」

「……みーくんは、寝ているみたいです。みーくんのお母さんが、そう言っていました……」

 震える声で小糠は言い、頭を下げる。

「すみません、波多野先輩……せっかく来てくださったのに……」

「…………」

 俺は黙って小糠を見つめ、あえて明るい声で言った。

「小糠。いや、みなこ。俺とデートしないか?」

「えっ?」

「せっかく遊びに来たんだから、楽しまねぇと」

 河原じゃなくて悪いけど。
 小糠――みなこに笑いかけると、みなこは茫然と俺を見て、「ううん」と首を横に振る。

「ありがとう……波多野先輩……いや、みつよしくん」

 みなこに笑顔が戻ったことに安堵して、俺はみなこの右手を掴んで歩き出す。

「み……みつよしくん」

「ん?」

「……手が……」

「あ、嫌だった?」

 みなこの右手から手を離すと、みなこが俺の手を掴んでくる。

「い、嫌じゃないよ……」

 恥ずかしげに言うみなこにくすりと笑って、俺はみなこの手を引きながら歩き続ける。

「みーくんはね」

 俺の手を握りながら、みなこが話し出す。

「私の、ヒーローなんだ。昔から、いじめられがちな私の傍にいて、私を守ってくれて……。私は、そんなみーくんのヒロインになるのが夢だったんだ」

「……そっか」

 ちくりと、胸が痛む。
 みなこは、本気で河原のことが好きなのだ。

「みーくんは、私のことを鬱陶しい妹だとしか思ってないけどね」

 みなこが苦笑するのが分かって、俺は足を止める。

「……みつよしくん?」

「……俺は、」

 想いを口にしようとして、躊躇いから口をつぐみ、「……何でもない」と返す。
 みなこはそれ以上は何も言ってこなかった。

 みなことショッピングモールを回り、映画を見て、食事を摂る。
 その時間は、楽しいものだった。みなこは7割くらい河原のことを話していたが、それでも俺はみなこと話せることが嬉しかった。

「今日はありがとう」

 別れる前に、みなこはそう言って笑った。

「こちらこそ。お前と色々なことを話せて楽しかったよ」

 7割くらい河原のことだったけどな。それは口にせずみなこに笑い返すと、みなこは照れたように目を伏せる。

「……みなこ、」

 想いを口にしようとして、しかし俺は別のことを口にする。

「お前にとって、俺はどういう存在だ?」

 みなこは目を見開いて、うーん……と思案する様子を見せる。

「みつよしくんは……そうだな、RPGでいう毎日便利なアイテムをくれる人かな」

「……なんだそりゃ」

 河原はヒーローなのに、俺はモブってことか?随分差があるじゃねぇか。
 内心で落胆していると、みなこはふふ、と笑い声を上げる。

「みつよしくんみたいな人がゲームにいたら、私は毎日会いに行くよ」

「……!」

「アイテムがいらなくなっても、同じ会話しか出来なくても、毎日会いに行く」

 みなこの言葉に息を呑むと、みなこは「何てね」と笑う。

「今日は本当にありがとう。またね、みつよしくん」

 みなこが右手を振りながら去っていく。
 俺はその姿を見送って、その場に立ち尽くす。

(どうやら、ある程度は俺のことが好きみたいだが……)

 しかしそれは、河原に対する想いとは比にはならないだろう。

(……河原が羨ましいな)

 俺は目を伏せて、自宅へと歩き出した。