小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

INDEX|10ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 
「ギターなんて高いもの、買う訳ないでしょう!」

「そこを何とか……!」

 家に帰って母さんに頼み込むと、母さんは困ったように眉を寄せた。

「とにかく駄目ですからね。欲しいならバイトして自分で買いなさい」

 く、俺の高校はバイトが禁止なことを知っているくせに。

「何、お前ギターやりたいの?」

 兄貴が口を挟んでくる。

「ああ、ギターってなんかかっこいいから」

「単純だな。……あ、ギターはないが、ウクレレならあるぞ」

「……ウクレレぇ?」

 ウクレレってあれか?アロハ~ってやつか?

「何でそんなもの持ってるんだよ」

「なんか、面白そうだと思って買ったんだ。まあ、ちゃんと弾けてないしお前にやるよ」

 兄貴はそう言って俺から離れ、ウクレレを持って戻ってくる。

「ウクレレか……」

 ウクレレはギターのようなかっこいいイメージはないが、まあ、ギターより簡単そうだしいいか。
 兄貴からウクレレを受け取った俺は、今日から頑張るぞ、と決意を新たにした。

 その日から、俺は毎日ウクレレの練習をし始めた。
 ウクレレは想像したより難しく、何度も唸りながら手を、指を動かし続けた。
 練習をしすぎて手首を痛めたこともあった。しかしウクレレの音を出すのは楽しくて、俺はウクレレに没頭していった。
 ある程度弾けるようになり、弾き語りに挑戦しようとも思い、歌いながらウクレレを弾いた。
 初めての弾き語りはそれは酷いものだったと思う。しかし歌いながらウクレレを弾くのは楽しくて、俺は何度もその練習をした。

(小糠に……あいつに聴かせてぇな)

 人に聴かせられる程に上達した俺はそう思い、ウクレレを持って学校に行き、小糠の姿を探した。
 中庭に、小糠はいた。俺を見た彼女は驚いたように目を丸くする。

「波多野先輩……それは?」

「ウクレレだ」

「……ウクレレ?」

 小糠がきょとんとする。
 俺は真剣な表情を浮かべて、ベンチに腰掛け、ウクレレを取り出して腕に抱える。

「お前に、俺のウクレレの音を聴いてほしい」

 弦に手を添えて、俺は歌いながらウクレレを弾き始めた。
 歌ったのは、俺の大好きな曲。
 手の届かない女性への愛を歌った曲だった。

 歌詞の中の男と、自分が重なる。

 ポロンポロンと心地よい音が、優しく俺の耳に届く。

 始めはウクレレなんて、と思っていたが、やってみると奥深く、その音は俺を魅了した。
 ウクレレの良さを小糠にも知って欲しくて、俺はウクレレを弾き続ける。
 小糠への想いを、声に、音に乗せる。

 歌い終わり、弾き終わると、静寂の後、パチパチと拍手の音が聞こえた。

「凄いです、波多野先輩……!私、感動しちゃいました!」

 花が咲いたように笑う小糠の姿に、俺の胸に暖かなものが広がっていく。

(ああ、好きな奴に曲を聴いて貰うって、こんなにも嬉しいことなんだな)

「ありがとうございます、素敵な曲を聴かせて頂いて」

「どういたしまして。ギターもかっこいいけど、ウクレレもいいもんだろ?」

「はい、そうですね!」

 満面に笑みを見せる小糠に、ウクレレを頑張って良かったなと俺は心から思った。