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我楽多語録「散歩道」

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女房亭主と対にして呼ばれる役割を抱える女
母親懐妊から女たることの歓びを知る存在感
父親社会という坩堝の中で廻されて孤独を生きる
英霊大義に殉じた悲しみの外の崇敬を表象する

寡婦独り居て自足する内なる輝き
女形女心を吸い上げた男の美の世界
戦死大義を超えて遺族の悲しみを永遠に残す
真実それを求める事実探しに立ちはだかる解釈の謎








煩悩定めなく移ろうままに思いは千切れる
運命自分の星に宿っている人生はその軌跡
個性は遺伝子の働き自分の原基
伝統の技に生きる職人に不動の気概を観る













     心の散歩

古里人の心を引き寄せる不思議な魔力に満ちている
祭礼昔を呼び起こし人は己を忘れて神になる
夜光顧みる白い月に懸る一条の雲
花心すべてを優しく包む人生の最高の栞

梵鐘遠くより響くように流れて朝を知らせる
日暮帰路に憑く一日の仕事を終えた解放感
花踏む心の疼きためらいの足を止める
散歩時が緩やかに過ぎる拘束されない安らぎ








黄昏に巽橋渡る女下駄カラコロと裾からげ
観梅の肌まだ寒く花弁の白も震える丘の風
悠然と座る蛙に僧対座して天候は如何にと
青年の一年は老年の一日異なるあり

煎茶和尚の開山にあやかる茶会布袋座像に会う
無量の光りに包まれて野は一面に春の色心ほのぼの
恙なくこの言葉の優しさは何事もないこと
哀愁がよぎるような女の横顔に懸る黒髪










花粉が女の幻想を空に夢を乗せて運ぶ
女のながばなし遠慮無用の癒しの秘訣
愛の旋律は分別を置き去りにし高鳴る
恋疼く心悶えるからだ虚空に乱れる

髪を風に流して一人の女が川を眺める銀の穂波
女の愛の花燃える真紅の唇
女緋鯉のように泳ぐ周りに群がる黒い鯉
肌を合わせ合って知る心の温かさ








寡黙そして饒舌是非も無い不安の虜
心は肉体に宿って自在に変化する命の泉
躍動は心を震わせ体を連れて天に運歓び降る
真実を生きるそれが残された人生の楽しみ

うつらうつらと暁に故人の姿浮かび出る
喝采千秋楽に心を込めて役者に感謝を送る
懐古は悠久の歴史の中に人を連れ戻す
悠揚と歩く人は総てを成し遂げた満足を映す










時の風吹くままに海の潮流れる果てに世は移る
不条理それを責める条理に論理のまやかし潜む
集団に囚われて自分の生き方を奪われる
鈍感な人間に囲まれて敏捷な行動を封じられた悔いが残る

絶対の孤独はない総体に孤独である誰でも
完成にほだされて動く前に考える余裕が要る
繁栄に陶酔し失った日本の世紀まぼろしの彼方に
虚空を握りしめる無念の相貌が真実を示唆








川底になお眠るか流されたか原爆死の肉親を捜す
地底から死者の慟哭が聞こえる刑場の跡
友の初盆に故郷を訪ね新しい供養塔に涙こぼれる
開基は古に遡る山寺で秘仏を守る尼僧とその母廃寺を恐れる

積雪の夜陰に森の樹が倒れるその響きが寂しい冬
遥かな窓灯りに人の影遠い距離が恨めしい
禅は心の本性を以心伝心の内観に求める
気紛れは春の嵐に女の心不意に吹き荒れる










舟歌流す二艘の親子舟父歌えば娘が返し浅瀬を渡る
長屋は下町文化の原点だと棲みつく若者たち
堕胎の思いを抱いた母に生まれた子は悲しみを秘めている
核家族が」無縁仏の温床跡を継ぐもの途絶えて

胎教は母と子の絆それを辿れば生命の原点に遡る
胎児は母の思いを心に記憶している
旅の空温かきものは郷土料理に自慢の地酒囲炉裏端
隠し味人生にもあるほろりとさせる人の奥ゆかしさ








怪談は夏を彩る暑気払い夜更けの怖さ
茹るもたつく気分が霞むような暑気
夏月夜盆踊り鎮守の森に降る星に浴衣の舞姿
灯篭流し揺れる灯影に偲ぶ在りし日の縁者の面影

蚊帳懸けて昼寝をすれば茹る体に忍ぶ蚊の一刺し
夏虫頬に纏わる夕べの灯火恨めしい納涼の恋
この橋渡るべきか戻るべきか佇む思案橋
この駅出会いと別れの集まる処喜びと涙が旅立つ










この旅田舎の駅にのびのびとした時間が流れる
この時思い出の彼方に消えて白い空間を創る
四季それが心をそそる折々の旅路
花籠背負って大原女が通った街道今も懐かしい

この嘘この橋渡れば真実は永遠に無用とささやく
この気その動きで人生が創られる日々新たに
幸福を求めて忘れた他人の不幸
夢かと疑うような突然の知らせに途惑う








待つそのことに慣れて楽しみを知る余裕が生まれる
詞の端々に気持ちが顔を出して心情を漏らす
死者に未練は冥府への旅立ちを妨げる
人間は鬼にも蛇にもなる魔物である
















       あとがき

 時の流れを知らず知らずに生きて振り返れば、未知だった世界を
幾つか乗り越えている。それを過去といってもその残像はこれまで
の人生のなかに生きていて、新しい未来に進もうとする現在を何か
と束縛している。これを個人の歴史と受け止めながらその重みを跳
ね返すように新しい試みをしようとするのが人生であろう。
 迷わずに生きるために私達はこの歴史を時々は思い起こして将来
の糧とする知恵が必要であると思う。この歌集ではその意味で生き
て来た時代の個人的体験や見聞を、自然散策、人生街道、心の散歩
によって構成しその全体を纏めて「散歩道」と名付けた。


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作品名:我楽多語録「散歩道」 作家名:佐武寛