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メンヘラ男くんと処女ビッチちゃん

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「んで、結局告ったん?」

 この幼馴染は、とにかく要領の悪い男だった。やっと人並みに恋でもしたのだと思えば相手は彼氏持ち。バカじゃないの、と心の底から思った。
 目の前で固まっている男は、ひたすらに面倒臭くて情けない。とにかく打たれ弱くて、自分のキャパシティを超えることがあるとすぐにパニックを起こして鬱になる。そのくせ自分はそれなりに出来ている人間だと思い込んでいる、ときたものだ。
 そんなどうしようもないダメ男は、恐ろしいほどあたしのことに興味を持っていなかった。だからあたしはちょっとだけ、遠くからこいつを見守ることに決めたのだ。人が水族館を好きになるのとおんなじ原理。魚なんかスーパーに行けばいくらでも見ることができるのに、わざわざ水族館に行ってまで魚に釘付けになってしまうのは、魚がガラス一枚隔てた異世界で泳いでいるのが珍しいから。そんな狙いでちょっと異世界に行ってしまえば、面白いほど釘付けになってくれた。とっても扱いやすくてとっても助かる。

「……うるさいな、黙って続きやれよ。もう教えてやらないぞ」
「あぁんごめんなさいってばぁ、教えてもらわなきゃわかんないよぉ。真面目にやるからさぁ」

 こんな感じで、すこし突っつけばこれだ。現実を見ることを完全に拒否している。面白半分苛立ち半分、もう少しほじくり回してやることにして、

「……でもあの子カレシいるんでしょー? ばかだなー、あたしにしときゃいいのに」

 ……なんて言おうもんなら、奴の顔がどんどん真っ赤になっていく。数回、陸に打ち上げられた魚みたいに口をぱくぱくさせてから、陰気臭く伸びっぱなしの前髪の向こうでぎっと眉が吊り上がるのが見えた。

「お前みたいなビッチなんか、死んでもお断りだ! 出てけよもう、一生勉強見ないからな!」

 ビッチ。そう言われるのは想定の範囲内であったけど。内心笑うしかなかった、だって本当は誰とも致したことなどありませんなんて言えば、なんて返ってくるのか想像もできなくて。

「やだなあもう、冗談だってばぁ。うそうそごめんなさーい、もう言いませーん。だから勉強教えてくださーい一生のお願いでぇーす」

 可笑しくって堪え切れなくて、思わず吹き出しかけながらそんなことを言った。教えてくれなきゃわからないなんて大嘘だ、この程度の問題なら参考書なんてなくても教科書さえ読んでおけば楽勝。仕方ないなとばかりに重要点を突く、奴のペン先の神経質な動きが面白い。きっとここまでしてやらなきゃこの女は理解できないとでも思っているのだろう。
 性格悪くて打たれ弱くて死ぬほど情けないこの男は、あたしの大事な幼馴染だった。いつまでついててやらなきゃダメかなあ、と思いながら、頬杖をついて横顔を眺め続けていた。