小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

メンヘラ男くんと処女ビッチちゃん

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
「んで、結局告ったん?」

 奴はニヤニヤ笑って、参考書のページの端をぺらぺら弄りながら僕に訊いてきた。
 恐ろしいほどデリカシーのないこの女は僕の幼馴染であったが、遠い世界に住んでいる人間でもあった。くるくる巻かれた長い髪は明るい色に染められて、ページを玩具みたいに扱う指先にはぴかぴかの長い爪。にーっと横に伸ばされて端を吊り上げる唇は明らかな人工色の桃色に塗りたくられ、ラメがキラキラ光っている。物心ついたときからずっと隣にいたはずのこいつは、いつの間にかこんな風貌になって、僕の知らない世界へ知らないうちに旅立っていった。……けれどこうして、何を考えているのかは知らないけれど、気まぐれに僕の元に戻ってくることもある。
 たとえば、定期テストの少し前の期間、週末。お互いようく見知っている、どちらかの部屋に集まって、僕が勉強を教えてやるのだ。こいつは見た目通りに頭が悪い。僕がこうして見てやらないと、正直進級できるかすら不安になるほどに。

「……うるさいな、黙って続きやれよ。もう教えてやらないぞ」
「あぁんごめんなさいってばぁ、教えてもらわなきゃわかんないよぉ。真面目にやるからさぁ」

 苛々を隠せない声で質問をはたき落とせば、媚びるような声色で縋り付いてくる。慌ててページを捲る赤いネイルの指先を見て、はあと溜息をついた、そのとき。

「……でもあの子カレシいるんでしょー? ばかだなー、あたしにしときゃいいのに」

 核地雷を、ケラケラ笑いながら、スキップでもするような軽い調子で。踏み抜かれた。抑えようと思っても、頭がぐらぐら沸き上がる。最低だ、こんなデリカシーのない、無神経な、最低の。

「お前みたいなビッチなんか、死んでもお断りだ! 出てけよもう、一生勉強見ないからな!」

 ……思わず大声で叫んでしまえばはっとして。さすがにひどいことを言ってしまったかと思って、慌てて奴の方を見た。けれども奴は一瞬だけぽかんとしていただけで、それから――いつもと変わらない調子で、ニマニマ笑うのだった。

「やだなあもう、冗談だってばぁ。うそうそごめんなさーい、もう言いませーん。だから勉強教えてくださーい一生のお願いでぇーす」

 ……こんなこと考えた僕がバカだった。はあーっとこれ見よがしに大きな大きな溜息を吐いてやりながら――捲られた参考書のページ、重要点をペン先でつついてやる。こんな最低の、反省の色すら見せないクソビッチでも、幼馴染であることに変わりはなくて。仕方なしに、続きをやってやる。
 こいつはきっと、僕がいないとダメだから。痛む頭を抱えながら、ニヤニヤ笑ったままの奴に、真面目にやれよと念を押すのだった。