そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
たっぷり五分かけ、足音は再び近づいてきた。志帆が言っていた。この屋敷は、内側が部屋と部屋でつながり、外側をぐるりと廊下が囲んでいるのだ。同じ方向に歩き続ければ、ぐるぐると屋敷内を周回することになる。
「次ここの部屋の前通りかかったら、開けてみる?襖」
「…やめた方がいい」
颯馬の提案は、瑞にはとてつもなく危険なもののように感じられた。伊吹は相変わらず、苦しそうな呼吸を繰り返しているし、電気も復旧しない。どうすればいいのだろう。このまま、朝を迎えるのを待つ?しかし尋常でなき伊吹の様子を見ていると、このまま待つのも危険な気がするのだ。
「おい、なんとかならんのか颯馬」
「えー、俺は陰陽師じゃないもん」
「神社のおうちの子だろ」
ギィー、ギィー…。再び足音が瑞らの部屋の前を通過していく。声を殺して奇禍が去るのをじっと待っていた二人だったが…。
「…!」
足音がやんだ。止まったのだ、この部屋の前で。
(なんだ…!)
漆黒の襖の向こうから、錐で突き刺すような強烈な視線を感じた。睨みつけられている!
はいってくる…?
警告じみた感情が、弾かれたようにせりあがってくる。
「なんかやばい。隠れよう」
「はーい」
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白