そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編
「今朝はここまで。授業が始まる」
「はい。ありがとうございました」
「ずいぶんよくなってると思うよ。また放課後な」
「はい!」
射場を出ていく伊吹に、郁が丁寧に頭を下げた。
「おつかれ一之瀬」
「須丸くん」
「授業遅れるぞ」
「そうだね。速く着替えて行くよ」
あとでね、と矢を取りに行く彼女の背中を見送りながら、瑞は何だか嬉しいような誇らしいような気持ちになるのだった。なんだか勝手に戦友のように思っている瑞だ。部活もだけれど、それ以外のことでも郁とはいろんな経験を一緒に重ねているからかもしれない。
「オイ副将」
「は、はいっ!」
いつの間にか背後に着替え終えた伊吹が立っていた。低い声で呼びかけられて驚いてしまった。
「鍵たのむぞ。それから」
「はい?」
「颯馬(そうま)の相談の件、どうする?」
颯馬から、何やら相談したいことがあると聞いたのは数日前。郁を含め、いみご様事件のメンバーに聴いてもらいたいのだという。おそらく心霊関係の相談事を、どうやら女の子関係から持ち込まれたそうなのだ。
「…正直、気は進みません。俺だって、いつだって上手に対処できるわけじゃない」
素直にそういうと、伊吹は同意を示した。
作品名:そぞろゆく夜叉 探偵奇談11 前編 作家名:ひなた眞白