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霊感少女

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精神科病棟




某大学病院


相楽は 一人で
訪れていた


霊を呼ぶ雅人が
いないだけ


霊魂と擦れ違っても
意識を 遮断すれば
寄って来る事は
ないからだ




相楽は 精神科病棟の
ナースステーションで

【多恵】の名前を
告げると

意外にも 簡単に
病室を 教えて貰えた



多分 年齢が
同じくらいだったからだろう



精神科病棟

一般病棟と同じ病室


ただ 入口に設置された
硝子張りの鍵つきの
大きな扉と

窓枠に 嵌め込まれた
鉄格子を 除けば



廊下も 病室も
何も 代わり映えしない



【小坂 多恵】


スライド式の
ドアを開けると


四人部屋の窓際に
車椅子に乗っていた
少女が 天井を眺め
横たわっていた



「多恵さん」



反応は ない事は
わかっていた


【多恵】が
精神を遮断している事も
わかっていた



相楽が 霊魂を
遮断する時に

よく似ていたからだろう



少し 早めの食事を
看護士が 運んで来た




無表情の無気力な
多恵の前に

プラスチックの
御膳が 置かれた



数分後

母親らしき女性が
「遅くなって ごめんね」
と 多恵に 声をかけ
ベッドの傍に 現れた


相楽に 一瞬 驚き

「多恵ちゃんの お友達?」
と 笑顔を見せた


神経の細い糸を
張り詰めた 多恵


少しの異変でも
多恵に してみたら
引き裂かれる思いなのだ


食事を 取る為に
わずかに 動く唇も
開くまでに
どれだけの 集中力と
どれだけの 神経を
研ぎ澄まさなければ
ならないのだろうか



相楽は 食事が
終わるまで



待ち合い室で
待つと 部屋を 出た



正直 見ているのが
辛くなったからだ






一時間以上
経った頃


多恵に付き添う女性が
待ち合い室に
顔を 出した


「ごめんなさい 多恵ちゃんね 疲れて 寝ちゃたのよ」

朗らかな笑顔で
伝えに来てくれた


「多恵ちゃんの お友達が 来てくれるなんて 叔母さん 嬉しかったわ」


「叔母さん?」

「…あら 知らなかったのね」

叔母は 少し首を 傾げた




「すいませんが 多恵さんの事を 教えて頂けませんか?」


相楽は 深く頭を下げて


「相楽 望です」


と 名乗った



陽射しが 眩しい
昼下がり


多恵の叔母と


初めて 多恵に会った
正面玄関横の
小さな 休憩所に
来ていた



叔母に 買って頂いた
お茶と おにぎりを
持って


木製のベンチに
並んで座った


「さて 何処から 話そうかね」

煙草を 吐き出した
叔母が 煙りを 追った

「出来れば 多恵さんが
精神病患者になった
原因から」

淡々と告げる相楽の顔を
覗き込み

「素直な子だね」

微かに笑った





叔母の話は
手短かで 解りやすい



【父親のギャンブルから
借金地獄になり
苦悩した母親が 自殺】


見栄っ張りの父親は
親戚に 相談する事なく
妻を自殺に 追いやり


そのまま
現在も行方不明だそうだ


借金の取り立てに
精神的に弱っていた
多恵は 自殺した母親の
横で 茫然自失に
なっていた所を

悔しくも
借金取りに
発見されたと言う


今は 親戚が
多恵の世話を
している


同世代の相楽は
多恵の味わった恐怖に
言葉が 出なかった


「菊地と言う名前に
心当たりは
ないでしょうか?」


首を 捻る叔母


「30代前半の男性」


叔母は 目を開き

「母親の葬儀に見えた
あの男かも しれないね」

「あの男?」

叔母は 相楽の顔を見て

「多恵を 見つけた
借金取りの男だよ」




それが
【菊地】
なのだろうか



訳が わからない


何故 多恵の生き霊は
借金取りの男の所に?




…見つけただけでは
ないのか




多恵の生き霊を
引き寄せる力は



それだけでは
…ないと 言う事なのか




借金取りの男と
借金取りに怯える女




……見つけたのは


………菊地




相楽は 顔を 歪めた



……男と女の
関係だったと
…言うのだろうか



相楽は 思い出した

雅人と抱きあっている時に 見せた 多恵の姿を



耳を塞ぐ 多恵の生き霊




菊地に 抱かれる
自分の姿と 重ねて

見せた表情だとしたら


多恵は 菊地に
犯され…た?



最後に
もう一度だけ
多恵の病室に
訪れた



天井を 眺める
多恵の手を握り



「伝えて」


相楽は 必死に
多恵に 訴えた




天井を 眺めたまま
多恵の心の声が

相楽の脳に
伝わる





「わかった 多恵さん」


多恵の手を握り
相楽は 返事を返した


作品名:霊感少女 作家名:田村屋本舗