霊感少女
謎の男
少女の正体は
少しだけ 見えた
精神科病棟に
入院している患者
[多恵]
これだけの情報が
あれば なんとか
解明に 辿り着ける
可能性が 出てきた
まだまだ
謎は 山積みだが
伝え終えた少女は
また 意志を持たずに
雅人の横に立ち尽くす
疲れて切った相楽は
病院から 少し
離れた喫茶店に入った
謎は 多い
何故 隣の県にまで
生き霊を送るのだろうか
何故 雅人に憑くのだろうか
何を伝えたいのだろうか
………いったい誰に?
注文したピラフと
焼きそばを たいらげた
雅人が 相楽のサンドイッチに 手を 伸ばした
「ねぇ」
一瞬ビクッとした雅人は
サンドイッチを摘み
口の中に 押し込んだ
「運送屋さんに 新しい社員でも 来た?」
「社員?知らねぇな」
首を 傾げ
「運転手さんは?」
「わかんねぇよ」
当然の答えだろう
ただのバイトが
社内に詳しい訳がない
「誰かの家の近所に
この県に 住んでた人が
引っ越して来たとか」
「そんな事 いちいち話すか?」
「それも そうね」
残り一個になった
サンドイッチを
見ている雅人に
相楽は 皿ごと
前に 出した
「変わった事なんて
ないわよね…」
サンドイッチを
飲み込んだ雅人が
「変わった人なら
居るけどな」
淡々と 答えた
雅人の仲間は 変人が
多い
類は友を 呼ぶのだろう
相楽は 話し半分に
聞く事にした
雅人の馬鹿馬鹿しい
仲間の武勇伝話は
正直 疲れる
馬鹿過ぎて
雅人の煙草を貰い
火を付けた相楽が
どうでもよさ気に
「どう変なの?」
「変わり者だな」
「なんで?」
「運送屋の仕分けだぜ
給料だって時給制だ」
「わかってるよ」
「三十路過ぎの男が
そんな仕事するか?」
「…何それ」
相楽は 煙草を
灰皿に 投げ捨てた
「勿体ねぇなぁ」
灰皿から煙草を拾い
くわえた雅人に
「ちゃんと話して!」
食い入る様に
身を 乗り出した
「あんま知らねぇよ 話した事ないし」
「何でも いいから
思い出してよ」
記憶力が悪い雅人が
腕を組んで 考え込んでいる
「…あっ」
「何?」
「そう言えば 運送屋
寮が あるんだってさ」
「……何?」
「社員寮って奴?」
「……それが 何?」
「そこに住んでるらしいぞ 三十路男」
「本当?」
「なんか 凄い経歴の持ち主で 履歴書だけで 寮に入れたとか 話てたな 誰かが」
それが 本当なら
この県から 引っ越して来た可能性も ある
「…いつから 居るの?」
雅人は 煙りを吐き出し
興味なさそうに
「一週間くらい前じゃね?」
相楽は 頭に血が昇って
喫茶店のテーブルを
両手で 叩き
「なんで話さないのよ!」
怒鳴りつけていた
時期的にも 合致する
相楽の勘は
外れては
いなかった
ただ 的が 外れていた
バイト仲間は
学生だけだと
決め付けていたからだ
三十路過ぎの男性なら
駐輪場ではなく
駐車場へ向かったのでは
ないだろうか
仕事終了後
すぐに 帰ったとしたら
ふざけながら 雅人が
裏口から出て来た頃には
敷地内に いない
【多恵】と【三十路男】
接点が あるはずだ
「雅人」
「ん?」
「逢わせて 三十路男と」
煙草を消していた
雅人の手が 止まり
「……はぁ?」
間抜けな声が あがった
「無理無理」
「なんでよ」
「話した事ないし」
「話せば いいじゃない」
「なんて」
「お茶しませんか?」
「男同士でか?」
ふて腐れた相楽が
雅人を 睨んだ
「恋愛相談にでも
乗って貰えば?」
雅人は 溜息をついて
肩を 落とした
一度 言い出したら
意見を 曲げない
相楽に 復活していた
相楽に言われるまま
雅人は 三十路男の前に
立っていた
「お茶しません?」
情けなくなる
何故に男を お茶に
誘わなければ
ならないのだ
いつも寡黙に
仕事を 熟す三十路男
返事は すんなり
「いいよ」
気さくな言葉が
帰ってきた
面食らったのは
雅人の方で
慌てた雅人が
口を 滑べらせた
「名前 何んすか?」
失礼にも程が ある
名前も知らないで
誘っているのだから
「菊地です」
親切に 答える菊地に
今更ながら
「どうも」
頭を下げて
雅人は 立ち去った
さぞかし奇妙な若者に
見えた事だろう
相楽の携帯に報告する
「誘ったぞ」
「何処に?」
「……」
「場所は 何処?」
「……決めてない」
沈黙が あり
「馬鹿じゃないの!」
相楽の怒鳴り声が響き
携帯は 切れた
切れた携帯に
「スイマセン」
雅人が 謝っていた