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霊感少女

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病院




翌朝 目が覚めると
少女の生き霊が
背中を向けて
部屋のドアの前に
立っていた



ついて来て



そう受け取った相楽は
慌てて雅人を揺さぶり
起こした



寝起きの悪い雅人に
容赦なく 張り手を
食らわす

「起きて!」
「……ぁあ?」
「早く!!」

すでに 着替えを
済ませた相楽が
髪を 纏めて
巻き上げられている



初めて見る
髪を結った 相楽の姿に
雅人は飛び起きた


バイト用に着ている
身軽な服装の相楽


オフホワイトの
肩まで開いた
広い衿のトレーナーに
スリムなジーンズが
足のラインを
綺麗に なぞっていた



雅人の家の近所で
バイトする相楽は
相楽とは イメージが
合わないトンカツ屋で
働いていた


こんな格好の店員が
トンカツ屋に 居たら
通ってしまうだろう


実際に トンカツ屋が
繁盛していたかは
わからないが
重宝がられていた事は
確かだった



「早くしてよ!」



苛々した相楽が
いらぬ妄想に浸る雅人に
目覚まし時計を
投げつけながら
怒鳴りつけていた



1メートル程
先を歩く少女の後を
必死で 追い掛ける



太陽の陽射しに
透けてしまう
少女を追うのは
至難の技に近い


少しでも雅人から
少女が離れてしまうと
少女が 作り上げた
エネルギーの塊である
生き霊の姿が
霞んでしまうからだ



訳も わからず
相楽に 引っ張られ
足どりも重い雅人


「何処行くんだ?」
「わからない」
「はぁ?」
「いいから 歩いて」


いい加減な答えに
不服を 感じた雅人は
歩く気力を 失くし
失速していく


引っ張るにも
相楽には 限界が ある


少女の影が 薄くなり
次第に 僅かな
陰影だけにまで
掠れてしまった


此処で 見失しなったら
また 振り出しに
戻ってしまう


相楽は 雅人を睨み


「してあげるから
歩いて!」


一瞬にして態度を変えた
雅人が 相楽を追い越し


「よし 行こう」


元気よく 歩き出した
少女までも 追い越して


「待って 待ってよ」


引き擦られながら
相楽が 必死に
雅人を 引き止めていた



電車を 乗り継ぎ
県境を越え
辿り着いた場所は



病院だった



大きな大学病院だ



立ち止まった少女が
病室を 眺めているが
どの病室か までは
わからない


一部屋ずつ
探すのは 無理だ
不審者に間違えられても
仕方がない状況に
成り兼ねない



相楽は 頭が痛くなった



此処まで 来て
何も 手掛かりが
掴めず
引き下がらなければ
ならないのだろうか



それ以前に
雅人の霊を呼ぶ力が
病院中から
恐ろしい程の霊を
呼び寄せている



相楽は 吐き気と
目眩に 苦しめられた



その時
少女が 動いた



正面玄関口の横に
設置してある
小さな休憩所へ



少女らしき女の子の
乗った車椅子が
押されてスロープを
降りてくる




吐き気と戦いながら
車椅子の少女の顔が
見える場所へと
移動した




少女は
無表情な冷たい顔で
車椅子に 座っている



雅人の横で
生き霊の少女が
同じ表情で
自分の姿を 眺めていた



少女の車椅子を
押して来たのは
父親だろうか


煙草を吸い終え

「戻ろうか 多恵」

少女の名前を呼んだ





横を 通り過ぎる
車椅子の側面に


[精神科病棟]

と書いてあった


作品名:霊感少女 作家名:田村屋本舗