霊感少女
不思議な霊魂
相楽は 不思議な霊魂を
見ていた
バイト帰りの
雅人の後ろから
付いて来て
部屋の隅で 座っている
まるで 友達の家を
訪問している様に
「何処か 寄って来た?」
「ん~ 直帰した」
「そう」
何処で 拾って来た
霊魂なのだろう
霊魂の姿も
どこも 欠ける事もなく
人と代わり映えしない
綺麗な少女だった
ただ透けて見えるだけで
雅人に 絡み付く
訳でもなく
必要に 意識表示を
する訳でも ない
そして
感情のない表情で
ひっそりと座っている
不思議な霊魂は
やはり
不思議と怖さすら
感じられなかった
相楽も
そのうち 消えるだろうと
それ以上
雅人を 問い詰める事は
しなかった
しかし
消える事は なく
雅人の後ろを
ついて廻る
危害を 加える事もなく
一週間が 過ぎ
さすがに相楽も
嫌気がさしてきた
抱き合っている間も
部屋の片隅で
少女が 座っている姿を
横目で 見るたび
そんな趣味は ないと
場が 白けてしまう
その都度
拒絶される雅人も
我慢の限界が
迫っていた
些細な事で
口論になる
霊魂の狙いは
いったい 何だろうか
相楽の脳裏に
言葉が浮かんだ
【生き霊】
生きた人間の魂
でも 何故?
生き霊であれば
意識表示を
してくるはず
何故 何も
伝えてこないの?
相楽は 少女の顔に
淋しい気な
表情を浮かべるのを
見ていた
「何が したいの?」
部屋の隅に向けて
相楽が 言った
背中を向けていた
雅人が ふて腐れて
「エッチ」
呟く声を聞いて
相楽は 溜息をつき
頭を 抱えた
「馬鹿じゃないの」
「なんでだよ」
「雅人に言ったんじゃ ないのよ」
雅人は 嫌そうな顔で
振り返り
「またかよ」
文句を垂れた
それは 私の台詞だと
言い返したい気持ちを
ぐっと堪えた
少女が 現れたのは
一週間前
雅人が バイトから
直帰して部屋に
入って来た時からだ
帰宅時間的にも
直帰した可能性は
高い
念の為 確認はしたが
結果[忘れた]と
いい加減な返事で
当てに ならなかった
少女を 目の前に
腕を組んで
仁王立ちの相楽
雅人からは
部屋の隅で
仁王立ちの背中をした
相楽にしか 見えない
「もしもし?」
恐る恐る相楽に声を
かけた
張り詰めた緊張感が
走る
以前 雅人は
相楽の忠告も聞かず
浮遊霊を 連れて来た事がある
[渡っては いけない踏切]を 渡り
踏切に佇む[白い服の女]を 部屋に呼び込んでしまった
壮絶な相楽と浮遊霊の
対決を 見た時から
霊と交信する相楽が
恐くて たまらないのだ
【霊を呼ぶ体質】
何度 相楽に言われても
霊感のない雅人に
信じろと言う方が無理なのだ
だが 確かに霊は存在し
相楽には 確実に見えている事だけは 理解しなければならないだろう
相楽が 突然 振り返り
雅人を 睨みつける
「女の子と 話した?」
「……へ?」
男子校に通う雅人に
どんな出会いが
あると言うのか
バイト先も運送屋
女子との接点など
ある訳が ない
彼女がいる事 事態が
奇跡に近い
雅人の反応を見て
当然の様に
「だよね」
相楽は溜息を ついた
そこまで 落胆する事は
ないだろうと ムッとした雅人
「なんでだよ」
思わず聞いてしまった
相楽は 首を横に倒し
納得のいかない顔で
「生き霊」
平然と答えた
一瞬にして 青ざめる
また 霊が 部屋に
居ると言うのか
腕を組んだ相楽が
ベッドに座り
また 部屋の隅を見て
「生き霊のはず」
珍しく 確信は
ないらしい
相楽の隣に座り
話しを 聞く事にした
何かが 引っ掛かって
いるのだろう
「はずとは?」
「生き霊にしては
大人しいのよね」
「なるほど」
相楽の隣で腕を組んで
相楽の髪の匂いを
嗅いでいた