霊感少女 第二章 一部
ペンキ
階段の先に 踊り場が 見える
想像していた程 暗闇に感じられないのは 踊り場の横に 屋上に出る扉の窓硝子から 光が差し込んでいたからだ
天井を見上げると 使用していない蛍光灯が ある
両側が黒ずんだ蛍光灯
電灯の役目は 果たさないかもしれない
日中でなければ かなり 薄暗くなるだろう
差し込む陽射しの お陰で 恐怖感は 少し 和らいだ
相楽の緊張も ほぐれ 後ろを見る余裕が出来た
「大丈夫?」
振り返りながら 松本と三橋に声をかけた
「大丈夫じゃないけど 大丈夫」
松本の言葉は いつも 変な言い回しだか 気持ちが伝わってくる
確かに 大丈夫ではないが なんとか 大丈夫
そんな意味に違いない
今にも 腰が抜けそうな三橋が 必死で 引き攣った顔で笑ってみせた
相楽は 階段を下りて 松本が支える反対側から三橋の腰に手を回して支えた
「ありがとう」
と まだ 緊張してガチガチの声で三橋が言うので
「私の方こそ ありがとう」
と 相楽が言った
少し考え込んだ松本が
「私は 何に ありがとうって言えば いいのかしら」
と 二人の顔を見た
松本に支えられながらも
三橋は 瞬時に
「馬鹿じゃないの」
と ツッコミを入れた
いいコンビだ
相楽は 笑いながら
「ありがとうね 松本さん」
と 告げた
ゆっくりと三人で 階段を上がった
踊り場の壁が 徐々に姿を現す
階段の幅と同じ幅の壁
階段の手摺りがL字に曲がり 手摺りから下を覗くと 通行禁止の札が見える
踊り場の床面積は 廊下の半分くらいに狭まった感じがした
目の前に 踊り場の壁が一面に広がる
一目瞭然で ペンキで塗った跡が解る
数回 塗り直したのだろう
ペンキの色も 所々 微妙に違う白い色が見えた
クリーム色や 灰色っぽい白や やや黄ばんだ白
その上に 新たな白が塗られていた
…まだ 新たしいペンキ
ごく最近 塗られた様だ
乱雑に塗り潰されたペンキの刷毛の跡が くっきりと残っている
松本の友達が見たと言う
踊り場の壁とは 全く 印象が 違う
………文化祭の後に
塗り直した?
三橋が ペンキの下に 何かを見つけ
「これ なんだろう?」
と 相楽に言った
確かに ペンキの下に 長方形の紙らしき物の形が 見える
相楽は 手をかざしてみた
……御札…?
なるほど そう言う事か
誰かが 御札を貼ったのだろう
封印?
………違う…
これは 呪封…
結界だ
相楽は 息を吐き出した
「……厄介だわ」
ここまで 来て
何も手掛かりも掴めず
引き返すしかないのか
相楽は 手の平に
指で文字を書き始め
御札の埋まっていない場所に 手をあてた
……………応えて!!
「ねぇ 見て見て」
松本が 相楽を呼んだ
相楽は 松本の指差す壁を見た
微かではあるが
ペンキの刷毛が かすれた場所がある
黒ずんだ文字
刷毛の跡が 邪魔している
遠くから離れて覗き込んでいた三橋が
「……〔園〕…って漢字じゃない?」
と 言った
相楽は 離れて見た
確かに 刷毛の間の部分だけを 繋ぎ合わせると
〔園〕に見える
………園部 香奈…
【家に行け】
そう伝えてきた 佳恵の友達の名前
……香奈さん
香奈の霊魂に 呼びかけても 反応がない
呪札の効力が強すぎる
相楽の霊感では
太刀打ち出来ない程
強力な呪札を
何故………
こんな場所に……
此処に 由美は 居るのか?
ただの 学校の七不思議にしては 大袈裟な仕掛けだ
どうしたらいい
何を すれば 由美を
救う事が……
この壁の向こうに
いったい 何が あるの?
遠くでチャイムの音が
鳴っている
「戻ろうか」
松本が 言った
「…そうね」
「やっぱり気味が悪いね」
「…そうね」
「でも意外と怖くないね」
「…そうね」
「そうね ばっかりね」
「……そうね」
「もう 聞いてないでしょ」
と松本は三橋の肩を叩いた
そんな やり取りを 後ろから見ていた相楽は 何気なく 上を向いた
踊り場の通路に面した
踊り場の手摺りから
血塗れの少女が
相楽を見下ろし
ニヤリと笑った
【私の勝ちね】
作品名:霊感少女 第二章 一部 作家名:田村屋本舗