霊感少女 第二章 一部
屋上
「本当みたい 詳しく聞いちゃったもん」
松本は 弁当箱の蓋を閉じた。
「どうだったって?」
弁当の途中で 蓋を閉じる三橋が 身を乗り出した
「残すの?」
「いいから 話して」
と 強めに言うと 三橋の弁当箱に心残しながら 渋々 話しを続けた
「なんかね 文化祭だったでしょ?だから 結構 厳重にロープがしてあったらしいの」
「それで?」
「でも 厳重だったから余計にシッカリ固定されてたみたいで よじ登って越えちゃったんだって」
「ロープを潜ったんじゃなくて?」
「腰辺りまでの高さだったって言ってたし よじ登るってよりは 無理矢理越えたんじゃない?」
「あぁ なんか わかる」
文化祭に通行禁止の階段にロープを張り直す可能性は高い
学校の怪談話が 有名な以上 面白半分に侵入する訪問者が増える事は 学校側も 解っているだろう
松本の友達の話は 嘘ではないかもしれない
「それで 見たの?」
待ち切れなくて 三橋は 途中の話を省く様に誘導する
「それがね…」
「早く!」
松本が わざとらしく 教室の中を見回し 声をひそめて 口元に手をかざした
「…血文字……あったらしいよ」
…血文字……
「………それで」
相楽が 続ける
「…何が 書いてあったの?」
由美が 知りたがっていた言葉だ
「…それがね 黒ずんでボヤケてて 何が書いてあるかは 解んないんだけど…」
「……けど…何?」
「なんか 人の名前みたいのが あちこちに 書いてあるみたいだったって言ってたよ」
壁一面に 書き殴った文字ではなく 壁のあちらこちらに 血文字があると言うのだろうか
相楽は 咄嗟に 椅子から立ち上がっていた
松本と三橋は 顔を見合わせてから
「相楽さん?」
と 立ち上がった相楽に声を かけた
「…い……行かないよね」
松本が 半泣きになった
「……ごめん」
相楽は 松本と三橋に謝りを入れて 教室を出て行った
「…嘘…冗談でしょ?」
と 三橋に聞く松本が 三橋の手を握った
少し震えた手をした三橋が
「……行こう」
と椅子から立ち上がる
「…やめようよ」
と手を引っ張る松本に
「相楽さん一人で 行かせる訳には いかないでしょ」
と 手を握り返した
少し考え込んだ松本も
「…そうだね」
と 手を握ったまま立ち上がったので 三橋の手が松本の体重に押し潰された形になり
「痛い!馬鹿!」
と 松本を睨んだ
三橋と松本は 教室のクラスメートに 気付かれない様に あくまでも自然に振る舞って教室を 抜け出し 相楽の後を追った
屋上に向かう 途中の階段で 相楽の姿を見つけ
「待って 相楽さん」
「一緒に 行くわ」
と 駆け寄った
「……いいの?」
相楽が 驚いて振り返ると
三橋が 笑って
「友達じゃない」
と 答えた後に 松本が
「本当は とっても嫌だけどね」
と 笑った
校舎の中央にある階段を 昇り 4階に着く
4階は 実験室や家庭科室があり 授業中でない限り 生徒の姿は ない
文化祭の時も 教室以外は 使用していなかった
屋上へ上がる階段は 校舎の端にあり 中央階段とは別の場所ある
廊下を奥に進むにつれ
足の速度も 遅くなる
三人で お互いしがみつきながら歩くので 歩きにくかった事もあるが それだけでは ないのだろう
耐え切れなくなった松本が
「…本当に行くの?」
と 零す
「…い…行くしかないでしょ」
1番 震えている三橋が 答えた
正直 真ん中で歩いていた相楽は 両側から しがみつかれて 肩が痛くなりかけていた
「…大丈夫よ だから…離して……重い…」
と つい言ってしまった
「あんた ダイエットしなさいよ」
「そんな事 今 言わなくっても いいじゃない」
「じゃあ いつ言えばいいの?」
「ん~ 明日」
「馬鹿じゃないの」
相楽に しがみついたまま 会話を続ける二人
「もう 重いってば!」
と相楽は 腕を振って二人を 振るい落とした
いつの間にか 階段に折れる廊下の前まで 来ていた事も 気付かずに
階段の一段目に 進入禁止の札は あった
封鎖しているはずのロープは 文化祭で 沢山の訪問者が 越えたのだろう
簡単に 跨げる位置まで垂れ下がっていた
ロープとは 別に ビニール紐を張っていたのか 擦り切れた紐が 何本か階段に落ちている
相楽は 立ち止まらず そのまま ロープを跨いだ
多分 ここで 立ち止まったら 一歩を踏み込む勇気を失い 躊躇してしまいそうだったからだ
足が震えて 立っているのも やっとの三橋を見て
さっきまで 恐怖感でいっぱいだった松本が 三橋の腰に手を回した
「…行こう」
意外にも しっかりした松本の声に 思わず
「ありがとう」
と 三橋が頭を下げた
階段を先に昇る相楽の後に続き 二人でロープを跨いだ
緊張すると松本は突拍子もない会話をしだす
「…ダイエットしようかな」
「今のままで いいよ」
「本当に そう思う?」
「……微妙」
「あぁ…微妙なんだ」
少々 間をあけて
「微妙って何よ」
と 松本は三橋の顔を見た
相楽が 階段の突き当たりを曲がった瞬間 慌てて階段を昇りだし
「待ってよ」
と 二人同時に声を発していた
作品名:霊感少女 第二章 一部 作家名:田村屋本舗