霊感少女 第二章 一部
踊り場
【文化祭】
高校の文化祭ともなると
学校全体が お祭りムードで 賑やかだ
有名女子校ともなれば 一般参加者も 大勢 やってくる。
他校の工業高校から 男子校の生徒まで ここぞとばかり 女の園に訪れるのだ
また 有名女子校に通えない 他校の女子達や中学生なども 女子校の中を見学できる滅多にないチャンスだったに違いない
お嬢様女子校ではないが 意外にも 催し物も充実している
【文化祭】と言っても かなり盛大なイベントになっていた
勿論 由美達の教室も同様で 一般人向けの駄菓子屋を出店していた
老舗の駄菓子屋から 大量に発注した品が 面白い様に売れる
商品が少なくなり 使用していない教室に在庫品を取りに行った由美が 段ボール箱を抱えて廊下を歩いていると 擦れ違った他校の生徒の会話が 耳に届いた
「屋上の踊り場 見に行かない?」
女子校の七不思議は 他校の生徒でも 噂になっているらしい
「えぇ~怖くない?」
「大丈夫なの?」
「通行禁止なんでしょ?」
そんな会話に 由美は 捕われてしまった
由美は 段ボールを教室に届けると 一目散に教室を飛び出した
誰も 由美の不可解な行動に気付かず 届けられた段ボールの商品を並べるのに夢中になっていた
由美の脳裏には
「きっと誰かが居る」
と 疑わいもせず 迷わず 屋上への階段をかけ昇る
絶対に 誰かしら 興味本意か あるいは 肝試し
または 話題作りに 屋上に上がる人が居ると確信していた
もし 由美が 逆の立場だったら 他校の校舎に そんな噂話があったら 見に行くかもしれないからだ
階段を昇ると 案の定 文化祭に使用していない教室が並ぶ廊下に チラホラと他校の生徒の姿があった
屋上に続く階段の近くまで来た由美は 通行禁止の札とロープの下がる階段に向かう人影を見た
確実に 今 目の前に あるはずのロープを潜る足が見える
由美は 一度 立ち止まり 深呼吸をするが 高鳴る心臓の音が耳の奥でコダマしていた
深く深く息を吸い込み
ゆっくりと吐き出した
由美は 屋上に上がる階段のロープの前で 手に汗を握る
すでに 先に入った人影は 突き当たりを曲がって踊り場への階段へ移動したのだろう
人影の姿は 見えなかった
ロープを潜り
一歩…
また一歩…
由美は 階段を昇る
一歩…
………一歩…
突き当たりを
曲がり
…一歩……
また 一歩
薄暗い階段
…一歩
由美は 踊り場に
昇る階段の
途中で…
足を 止めた
全身が ガクガクと
奮えだす
「……なん…で…」
「……誰も…いないの?」
涙が 溢れ出し
踊り場の前で
階段を見つめ
由美は 完全に 動けなくなっていた
由美は見たはずだ
階段のロープを潜る
人影を
潜った足を…
…見たはずだ
なのに 何故
誰も居ないの?
ふと…見た足を
思い出た
……ストッキングに
血で握るられた
指の痕…………
全身から
冷たい汗が
吹き出る
唾を飲み込む音
ゴクン……
由美は
恐る恐る
顔を上げて……
踊り場の
壁を…見た
「………嘘……」
ペンキに塗り潰れた
踊り場の壁に
血文字が…
【坂本 由美】
由美の名前。
その日を境に
由美は 消息不明になった
作品名:霊感少女 第二章 一部 作家名:田村屋本舗