霊感少女 第一章
カスミ草事件
相楽が初めて 僕の部屋に遊びに来た時の事だ。
何度か家の前を 通っていたので 場所を知っている相楽は 一人で訪問すると 迎えを 断った。
名字で呼ぶのは 前に一度 [望]と呼んだが
「名前で呼ばないで」
と拒否されたからだ
何故か 自分の名前を酷く嫌っていたが 理由は教えてはくれなかった
ふざけて[のんちゃん]と 呼んだ時に 真っ青な顔で腕の毛が総立ちした姿を見てから 名前の話題には 触れてはいない
謎の多い女だ
家のチャイムが鳴り 玄関の真上の部屋から窓を開けて
「上がって来いよ」
と声を掛けたが 相楽は 上を見ようともせず 玄関の前で立っている
仕方なく 玄関先まで行くと
「開けてよ」
と声が聞こえた
玄関を開けると 抱えきれない程のカスミ草を持って 相楽が立っている
驚いている僕に カスミ草を押し付け 家の中をスタスタ歩きだし 戸惑いもなく 茶の間の横の襖を開けた。
祖母の部屋だ。
非常識にも 程がある
「何してんだよ」
かなり不機嫌な言い方をしたが 持参したカスミ草を 睨みながら 奪い取り
「頼まれたのよ」
と 仏壇の前に大量のカスミ草を供え 手を合わせていた
全く 意味が解らない。
「花瓶は何処?」
「知るかよ」
「自分の家でしょ?」
「知らねぇよ」
「呆れた」
呆れているのは こっちだ
「まっいいわ もうすぐ お姉さんが帰ってくるから」
と スクッと立ち上がり 祖母の部屋を出た相楽が そのまま 僕の部屋に向かった。
残念だが 姉は まだまだ帰っては来ない。
事務の勤務時間は 定時でも 後二時間は ある
階段脇にある 洗面所で 急いで歯を磨き 浮き足だって部屋に向かった。
ベッドに腰掛け 上着を脱いで床に座る相楽が テーブルに肘をつき煙草を吸っている胸元を チラチラ覗き込むが 金縛り状態で身動きが取れない
バクバクする胸の鼓動を 必死で隠しながら 不自然でない行動を考えていると 玄関が開く音が聞こえ
「ただいま」
と 姉が叫んだ瞬間 ベッドにひっくり返った
(なんでだよ!)
相楽の予想通り あれから10分足らずで 姉が帰宅したのだ
「残念でした」
煙草の煙りを 吐きかける相楽が ニヤリと笑う
「次は やる!」
鼻息荒く ふて腐れて口を尖らせていると
「今日は 帰るね」
上着を着た相楽が ベッドに寝転ぶ僕に キスをして 部屋を 出て行った
その後 姉と相楽の話声が 聞こえたが うわの空で 何を話していたのかは わからない
ただ 夕飯の時に 姉が相楽を[カスミちゃん]と呼び 父に話しをしていた
そして 風呂上がりの父に 意外な事実を聞かされた
亡くなった祖父が 生前 祖母の誕生日に 花を贈ろうと花屋に行ったが 花を注文できずに 大量のカスミ草を購入してきたらしい
相楽が「頼まれた」と言った言葉を思い出し 身震いがした
祖父に 頼まれたのだろうか
正直怖くなったが
老人ケアホームから帰宅した祖母が カスミ草の前に座り 笑っていたのだから
よし!と しておこう