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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 21話から25話

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 「おや。よく見るとどことなく、小春の若い頃によく似ているわねぇ。この子。
 なんだい。あたしを見て、面食らっているのかい?
 疑っているような目つきだねぇ。
 まるで鳩が豆鉄砲を食らったような目をしているよ。
 あたしを、男か女か、戸惑っている様子だねぇ。
 ははは。それなら心配はない。あたしゃ女じゃない、正真正銘の男だよ。
 なんだい春奴母さんは、事情を説明しておいてくれなかったのかい。
 それはまた、ずいぶん気の毒なことをしました。可哀想に」


 しかしこうして見るかぎり、目の前に座っている市奴の姿はどこから
どう見ても、品良く年を老いてきた、芸妓にしか見えない。
市の口元が、優しくニコリと微笑んだ瞬間、『えっ!あたし以上に色っぽい!』
と思わず清子が身震いを覚えている。
市奴の美しい唇が、妖艶に動きはじめた。


 「話すと長くなります。
 とりあえず、道筋を整理いたしましょう。
 あたしが芸妓になる時、大変お世話になった恩人、それが春奴母さんです。
 後を追って湯西川へやってきた豆奴とは、同期の桜です。
 小春は、あたしが春奴姉さんからお預かりした、子飼いの芸妓です。
 ではまず、あたしが何故、春奴母さんと戦友なのかという話から
 いたしましょう。
 いまから20数年前にさかのぼります。
 あたしを男と知りながら、共犯者になったからです。
 戦友というより、当時の鬼怒川の花柳界を見事にあざむいた首謀者と、
 共犯者という間柄になるのでしょうか?。
 うふふ」


 (24)へ、つづく



赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (24)
 市の身の上

 市の出身は会津高原。
会津高原は、会津の南西部にある会津高原たかつえスキー場の周辺を
観光開発するために名付けられた、通称の地域名。
そのため。一般的に定義されている高原のイメージとは、大きく異なる。
 
 1960年の晩秋のこと。高原の中にある1軒の農家、小沢家で、
半年前に家出した1人息子の市左衛門の帰郷祝いが、盛大に開催された。

 本人の帰郷に先立ち、トラックが数台やってきた。
本人の荷物とテレビ、電気洗濯機などの最新式の家庭電化製品や、
桐たんすにぎっしり詰まった豪華な女物の衣装が、相次いで運び込まれた。
その様子を見た隣人や招待客たちは「市坊は東京のお大尽さまの娘を
嫁にもらった」と、互いに噂しあった。