赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 21話から25話
「2番目の歌詞で登場するのが、
”(エンヤー)東山から日にちの便り(コリャ)
行かざなるまい(エーマタ)顔見せに”
と歌われる東山温泉。
東山芸妓の始まりは、明治の初期。
昭和30年代の最盛期には、なんと200名以上の芸妓がいたそうです。
新選組の土方歳三や伊藤博文、与謝野晶子などに愛された温泉です。
大小の滝を経ながら流れる湯川の渓流に沿い、20軒余りの旅館と
ホテルがあります。
小原庄助が、朝からお湯を浴びていたのも、この東山温泉です。
小春がここへ引っ越してくることで、2人は最初の危機を脱しました。
その手引きをしてくれたのが、いまでは会津の街場にたったで
ひとり残っている、あたしの戦友の、芸妓の市さん。
ほら。車の中で説明した、古い知り合いさ。
その市さんと連絡が取れたそうです。
その前に、これから東山のお座敷へ行きましょう。
いつもはお座敷を務める立場ですが、本日はお客です。
これ豆奴。お前さん、何を念入りに、
お粉(おしろい)なんか塗っているんだい。
言ったじゃないか。今日は、3人ともお客の立場だって」
たまも清子も、あわてて豆奴を振り返る。
見れば、片肌を顕にした豆奴が鏡に向かって、一心不乱にお座敷用の
お化粧の真っ最中だ。
「あら。そうでしたっけ、お母さん。
お座敷と聞いただけでもう、手が、勝手にいつものように
動いてしまいました。
いやですねぇ。化粧する必要なんて、これっぽっちも無いというのに。
だめですねぇ。本気で女を磨き始めてしまいました・・・
これが職業病というものでしょうか。嫌になりますねぇ、我ながら。
うっふっふ」
(23)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 21話から25話 作家名:落合順平