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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 21話から25話

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 市ちゃんの秘密は、何人かの女将以外に、漏れることはなかった。
春奴が都会から連れてきた新進の芸妓としても、さっそうと
温泉街をのしあるく。
若くて美人なうえ、三味線と日舞が上手なきぬ奴は、たちまち人気者になる。
鬼怒川温泉の売れっ奴芸妓としてのしあがっていく。
 
 ところがその年の8月。はやくも事件が起こる。
某銀行の慰安旅行で、鬼怒川温泉にやって来た50がらみの好色の部長が、
心の底から、きぬ奴に惚れこんでしまう。
週末に必ず通ってくるというほどの、熱の入れようになる。

 やがて。お定まりの身請けがはじまる。
きぬ奴を囲った男は、彼女が欲しがる家電製品や着物を、次々に買い与える。
しかしきぬ奴は「結婚するまでは」と、決して肌を許そうとしない。
とは言え、男の執着を避け続けるのには限界がある。

 そもそも男なのだから、部長を受け入れることなど絶対に出来ない。
思い詰めたきね奴を、春奴母さんが助ける。
男と別れ、貢がせた道具や衣装を持って故郷に帰ることを市にすすめる。
『あとのことは、私がなんとでもいたしますから』と見送られ、
市が、故郷へ戻ることになる。

 「20歳の時の市さんは、女が見ても嫉妬を覚えたくらいの
 美しさをもっていました。
 でもねぇ。苦労しました、その後の処理には。
 あのスケベな部長さんには、さんざん手こずりました。
 ようやく諦めさせて、ほっとした半年後。市さんは会津の街中で、
 あらためて芸妓の旗揚げをしました。
 でもね。そのおかげで、あたしもここにいる小春もその後のピンチを、
 切り抜けることになるのです。
 助けたり、助けられたり、やっぱりあたしたちは、長年の戦友です。
 本当に面白かったねぇあの頃は。ねぇ、きぬ奴。うふふ・・・・」


(25)へ、つづく


赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (25)
 なりませぬ節


 「会津の風土は、雪が創ったと言われています。
 会津の人々は1年の4分の1を、雪の中で過ごします。
 毎日、絶え間なく降りそそぎ、積り続ける雪との、厳しい戦いが続きます。
 盆地ゆえに、春が訪れるまで、他の地域と交流できません。
 隔絶された環境が、長い時間をかけて、会津の風土を育てました。
 どうにもならない自然との闘いが、いつまでも続いていくのです。
 そうしたことが、ちょっとした自然の変化にも感動する、
 会津の気質を育てました。
 しかし。遊んでばかりいては生きられません。
 1人でも生きられません。
 人々が助けあわねば、生きていけない場所なのです。
 そうした環境が他の地方の人から、なかなか理解できない会津の
 頑固者たちを大勢、育てあげました。
 古くから伝わる言葉で、会津の土地柄を話す時よく引き合いに
 出される言葉があります。
 『会津の三泣き』というものです。