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御手紙 葉
御手紙 葉
novelistID. 61622
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twinkle,twinkle,little star...

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 私はふっと微笑み、歩き出した。スーツケースの車輪が回る音がカラカラと響き、虫の合唱に吸い込まれるようにして消えていった。

 戻ってきてしまった、と思った。
 人の雑多な生活音、騒がしげな話し声、あの身を縛るような孤独感。電車の座席に腰を下ろして手元のスーツケースに目を落としながら、これからのことを考える。
 今の仕事をとにかく精一杯やって、その時が来たら潔く辞めよう。でも、終わりが来るとは絶対に思わず、がむしゃらにやって付いていけばいい。
 私は人目に気付かれないくらいに小さくうなずき、スマートフォンを操作して星座の写真を見つめる。あの街に行く前にはざわついていた心の中が今は落ち着いた静けさにたゆたっていた。
 少しずつ心が元気を取り戻していく。よし、とつぶやいて顔を上げた時、ベビーカーを押した女性が車両に入ってきたので、私ははっと立ち上がった。
「どうぞ。この席に」
 私は彼女にそう囁き、脇へとどいたけれど、その顔を見て硬直した。その女性は私が数日前電車で見かけた高校の同級生だった。
 彼女はありがとうございます、とつぶやき、席に座ろうとしたけれど、私と目が合って驚いた表情を浮かべた。
「佐代さんじゃない?」
 彼女はそう高い声で言い、私に笑いかけてきた。私はどうしよう、と迷いが心を過るのを感じたけれど、今度は隠れようとは思わなかった。
 一歩足を踏み出し、彼女に「久しぶり」と笑い返した。
 そこから会話が弾け、私は彼女と懐かしさのあまり大声で言葉を交わしていく。ここが電車の中だといつの間にか忘れていた。
「本当に久しぶりね。佐代ちゃん、変わったね」
「え?」

 ――今、すごく活き活きしてる。素敵になったわね。

 彼女の言葉に私の周囲から音が消え、その言葉が鐘の音のように頭の中に反響した。私はゆっくりと、静かに息を吸い、優しさに心を満たしていった。
 そして、こう笑った。
「輝くことをあるものから教えてもらったのよ」
 同じく輝いている彼女は、星空の煌きのようにふわりとかすかに笑って、私の手を握った。

 了