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熱帯円盤

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 まさか、本当にそのまさかだった。本当にコイツを間近に見ることになるなんて。強い光に目を細めながら、もしかしたら夢か幻覚と疑った。が、足下から這い上ってくる蛆虫のような恐怖は多分に生々しく、体は氷のように硬直し、呼吸は深く小さくなっていった。

 ピタリと光がやんだ。悲鳴をあげようと口を開いたが、まるで声帯をどこかに落としてきたかのように声が出ない。しかしたとえ叫んだとしても、ここは埼玉にある閉鎖された植物園である。そして実質不法侵入、入ってきた所から今この場所まで、かれこれ1時間以上歩いているのだから、他の人間の耳に私の声が届くことはないだろう。

 一時間・・・?正確な時間はわからないが相当な時間歩き続けたことは確かだ。あまりに厚い外気に朦朧としていたことは確かだが、どう考えてもこれだけ歩き続けて敷地外にたどり着いていないのはおかしい。

 日本ではあまりお目にかかれない東南アジアの熱帯植物が生い茂っている、この不気味な植物園は、まるでジャングルのようだった。日本の気候において、本来ならば温室でしか育たないはずの熱帯植物達がなぜこのように密生しているのか――何かがおかしいと、もっと早くに気づくべきだった。まだ2月で午前2時をまわっているというのに、肌がベトつくほどの蒸し暑さ、空気の重さを実感できるような多量の水気を含んだ空気、得体の知れない動物達が咆哮するような声も聞こえる。道中で毒々しい色をした見たことの無い巨大な昆虫を見かけたことも、この場所の異常さを物語っている。鼻頭を巨大で見たことのない蛾がヨタヨタと飛び去っていく。確実に何かが狂っている。

 光がやんでそれは姿を消したかと思えたが、恐怖で動けないまま時間が過ぎていった。やがて暗闇に目が慣れてくると、光があった場所には暗闇よりも暗い鉛色の物体が浮いていることがわかってきた。着陸する前に、どうしても逃げなければならないと強く思ったが、そう思えば思うほど体は硬直していくようだった。もし体を動かせば、それは私を見つけるかもしれない。私はこの植物園の所々に点在している大きな南国の仏像の陰からそれを見ている。運がよければまだ見つかっていないはずなのだ。
作品名:熱帯円盤 作家名:秋月朗芳