レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物
勢いは止まらない。後ろの住宅地も一直線にえぐりながら、銀色の鱗をすすで汚し、転がっていく。
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『次は、俺の番だな。ティモテオス・J・ビーチャム。あだ名ティモシー』
ウルジンが始める。
『能力は、全身の細胞を活性化させることによる、巨人化。
彼が生まれ育ったのは、平行世界の地球型、スイッチア型惑星だ。
そこでは、惑星全土を滅ぼす戦争が巻き起こっていた。
彼と彼の家族はかろうじてシェルターに逃れたが、そこにわずかな割れ目があったのだ。
そこから有害な化学物質が流れ込んできた。
シェルターに逃げ込んだことは、かえって逃げ場を捨てたようなものだった。
そんな環境から彼を救ったのは、生きたいという願いが呼び込んだ異能力だ。
あの巨人の姿になると、高圧や高温、低温、宇宙空間の真空や放射線にも耐えられる。
だがその結果、たった一人で22年間生き続けることになった。
今年で33歳になる。
最近になって、ようやく人とふれあい方がわかってきたと言っていたな』
残る急襲チームはテレジ・イワノフただ一人。
カーリタースかシエロが説明しなければならない。
2人の目がテレジを確認した。
ところが、2人の視線はその後で奇妙な一致を見せた。
遠い空に移ったのだ。
友達と、自国民の戦いを見るのは辛すぎる。
そう思ってのことだったのだが……。
「あれ。なんだ、あれ」
カーリタースは、そう言って指差した。
だが示した物を、他の者は分かってやれなかった。
チェ連人達は、頭の回りに表示された立体映像を見ている。
それを外から見れば、ヘルメットをかぶっているようだ。
「一人一人見ている映像が違うから、その外を指さしても何もわからない」
シエロに言われ、悟ったカーリタースは言い直す。
『山脈と並行して伸びる平原。外洋がある方向』
そこを見ていると、全身が震えてくる。それを、自分をなだめていく。
『今は、無数の宇宙戦艦が並んでいる。
その向こうに見える、あれ』
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宇宙戦艦は、どれも巨大だ。
全長1000メートル。高さ300メートルなどざらにある。
それが何百隻と並んでいるのだ。
山脈と呼ぶにふさわしい。
その向こうにある、あれは、金色に輝いていた。
どれだけ遠くにあるのかわからない。
もしかすると、外洋から立ち上がっているのかもしれない。
どれだけの幅があるのか、高さもわからない。
どちらの端もあまりに遠すぎて、かすんでいる。
ただ、今火を巻き上げる暴風は、そこから来ている。
金色の何かの近くで巻き上がる埃のような物。
それは、巻き上げられた巨大な岩や、へし折られた森の木だった。
もし、新しい火山が生まれ、一斉に噴火した。と言われても、信じたかもしれない。
舞い散る大木が、燃えている。
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『あれか。あれは天上人だ』
オルバイファスが、不愉快そうに言った。
『この星では大陸が一つしかない分、海も広い。
そのため、大量の水蒸気が巨大な台風を発生させる。
天上人は、その台風に自らの体を混ぜ、コントロールするすべを得たのだ。
彼らの体はガスだ。それが水分に溶け込まぬよう、バリアを張ってな』
「台風警報は!? 出ていないのですか!? 」
カーリタースが気付いた。
「長距離レーダー35号は?どうなったのですか!? 」
恐ろしいことがわかる。そのことを確信したような声だった。
それは、正しかった。
『逃げた』
オルバイファスはそれだけ言うと、ノーチアサンが撮影した映像を見せた。
フセン市の最寄りの山頂にある、4階建てのビルのまわりには、1台も車がなかった。
シエロの目から、涙が零れ落ちた。
カーリタースも同じように、膝に大きなしみを作る。
モニター越しの仲間も、涙で滲ませながら見守る事しかできない。
シエロはそんな自分が情けなくなり、逃げ出したくなった。
だが、どこを見ても映像、映像、映像。
そして鍛えられた彼の目は、ライブ映像の変化を見逃さない。
「あ、あれは何だ? 」
シエロが指摘した物。
それは、宇宙戦艦の並びだ。
そこのエネルギー反応が棒グラフとして跳ね上がった。
反応は増え続ける。
突然、天上人に向かっていくつもの光が放たれた!
「ほ、砲撃だ! 」
カーリタースが叫んだ。
「あ、あれもボルケーナ……様の力なんですか? 」
オルバイファスが答える。
『そう、そのとうりだ。
ボルケーナは存在するだけで、その周囲の滅びの概念を破壊する。
銃を撃てば弾が外れる。弾詰まりを起こす。又は銃が壊れる。
偶然としか思えない現象が重なり、滅びが消えてしまうわけだ』
「と、いう事は……」
その説明が、受け継がれた。
カーリタースだ。
「今も、神獣ボルケーナの能力で偶然としか思えない現象が重なり、宇宙戦艦が再び稼働した。
そして付近の滅びが起こらない範囲にのみ、攻撃やバリアが起動する」
天上人の前に、色とりどりの壁が立ち上がっていた。
そこで金色の光が、止まる。
「そう……ですよね……? オルバイファス様」
だが、その声の響きは、まるですすり泣くよう。
自分を納得させ、安心させるために言ったようだ。
『うむ、良い説明だ』
だが、オルバイファスはそれをほめつつも、容赦しない。
『ただし、それほど都合のいいものではない。建物の崩れるタイミングを見てみろ』
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地域防衛隊員の中に、火炎放射器を持つ物がいる。
消火栓が破壊されていない地域では、その炎が新しい家も瓦礫となった家も次々に焼いていく。
だがタイミングに気を付けてみると、確かにおかしい。
加速度的に、崩れる家が増えていく。
大して燃えていない建物も、同じタイミングで崩れていく!
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オルバイファスは説明する。
『概念宇宙論による異能力の発動。
それは未来において起こる現象を、現在において発生させるものだ。
ボルケーナの場合、無意識にそれを垂れ流した状態にある。
それが問題なのだ。
人が入れば危険な建物は、そうなる前に、ボルケーナの神力が押しつぶす。
この燃え落ちる街自体が、滅びだからだ。
50年間も手入れもなく無事な建物など、ありえんからな。
結果、火災は加速度的に燃え広がる』
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オルバイファス戦車が進んでいく。
装甲から突き出た突起で、切り裂かれ、スクラップにした武装バスを引きずったまま。
難を逃れた防衛隊は、武装トラックを中心に抵抗を続ける。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物 作家名:リューガ