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レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物

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 それを肩まで伸ばし、すべて細く何本も編みあげた、見事なドレットヘア。

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『し、新聞委員長、アラン・オーキッド』
 次に言い当てたのは、ワシリーだ。

 アランの手に、小さく金色に輝く物がある。
 何かを握っている。
 それは、チェ連ではあるはずのない物だった。
 だが、それをワシリーは、本人から聞いていた。
『手に持っているのは、メイメイが貸した武器のひとつで、ヴァジュラという』
 サイズ自体は小さい。
 手一つで握る柄があり、その上下に3本づつ、鋭い槍が突きでている。
 槍の間に、高熱の何かが浮いている。
 映像に注意書きがあった。{高圧電流 注意}
『能力は電撃。しかもヴァジュラの力でコントロールが増している』

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 防衛隊はあきらめない。
 雨あられと銃撃してくる。
 隠れた場所から、じりじり近づきながら撃つ者もいる。
 映像の中で、彼らの必死の表情がはっきりわかった。

 アランは、その真正面に飛び込んだ。
 そして猛然とヴァジュラを振りかざす。
 槍からほとばしる紫電が、満ちる空間を広げた。

 電撃から放たれた磁力が、迫りくる弾丸やロケット砲、金属物を完全にからめ捕り、空中に静止させた。
 手にしっかり握られていたはずの銃も、奪い去る。

 電撃は、今度は防衛隊そのものにふるわれた。
 そのたびに、彼らはまとめて崩れ落ちる。

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『うわあ! やられる! 』
 マイルドの車内で、ワシリーが悲壮な声でさけんだ。
『安心しろ。気絶させているだけだ』
 オルバイファスは、そう言い切った。
 だが、ワシリーは食い下がる。

『そんな事! わかるもんか! 』
 もう、オルバイファスの無数の砲弾も関係なかった。

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 枝分かれしてのたうつ電撃が、不意にまっすぐ物陰に伸びた。
 レーザーは、通った空気をイオン化する。
 すると、本来電気を塔さない空気に、通りやすい道を作る。

 レーザー銃は電撃を受けて爆発、熱で溶けてしまった。
 そして、磁力に引かれて飛んでいく。
 だが、その持ち主も、共に飛んでいく。
 彼は銃を奪われないよう、銃を体にぶら下げるベルトを腕に巻きつけていたのだ。

『ああっ! 』
 それを見て、真っ先に驚いたのはアランだ。
『ビーチャムさん! あの人を捕まえて! 』
 アランがたのんだのは、もう一方の前線を広げる、白い巨人。
 2年生であるが30代の男。ティモテオス・J・ビーチャムは、すぐにアランの元に駆け付けた。
『引き寄せます! 』
 電撃がアランの手前で収縮する。
 その中に、ティモシーは無然と飛び込んだ。
 そして突き抜けた時、その手にはレーザー銃の男が握られていた。
 あっけにとられた顔でティモシーを見ている。
 銃のベルトは、引きちぎられてもうない。
『よかった。息はある』

 アランはティモシーの言葉を聞くと、かざしたヴァジュラの雷を、今度は川に向けて振り下ろした。
 それにつられて銃や弾は、すべて川へ落下。
 水中で爆発したロケット弾が、巨大な水柱を立ちのぼらせた。

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「ワシリー、思い出したかい? 」
 カーリタースがおずおずと、しかし彼を信じて言った。
「自分たちの事を知ってほしいと、最初に僕たちに話しかけてきたのはアランなんだよ」

『アラン……』
 ヘルメット状の画面に透けて見える顔は、もう怯えていなかった。ただ、悲しげだった。

「説明、するんだろ? 」
 カーリタースにせかされた。

『ああ。アラン・オーキッドが生まれたのは、アメリカ合衆国の南部。人種差別の激しい田舎町だった』
 ワシリーは思い出す。
『話はそれるが、異能力が後天的に発生する場合、その原因となるのは本人の強い意思による。猛烈な欲望が多い。
 アランの故郷では、黒い肌の人間は白い肌の人間から、知性の低い人種だと決めつけられていた。
 差別する方からしたら文明の進歩差がその根拠らしいが、そんな物は広い海で隔てられていた、何百年も前だから成立した差にすぎない。
 移動や情報交換が激しくなれば根拠のない違いなる……はずだった』

 そうだ。それは士官候補生たちもそうであるように。

『アランが受けた差別は様々だが、直接能力に結び付いたのは、白い肌の女の子にラブレターを送った一軒だったそうだ。
 その女の子、クラスの人気者だった。
 でも、どこで知ったのか、白い肌のクラスメートに襲われた。
 4人がかりで殴られて、蹴られて。
 その暴行の最中に能力に覚醒した。
 最初の4人は、全身やけどで病院送りとなった。
 アランは、それで調子に乗ってしまった。
 彼はこれまでの仕返しに暴れようと、近くの駅へと向かった。
 その街で一番人が集まるところだからな。
 だがそこで、偶然あるものを目にする。
 白い肌のご夫人が、同じ白い肌の男を罵っている光景だった。
 その男は、顔に大きな傷があった。
 ご婦人はその顔が気に食わなかった。なぜ家にこもっていないのかと文句を言った。
 それを見て、アランはむなしさを感じた。
 ほんのわずかな違いにさえ、気に食わない人はいる。
 そんなやつに時間を使うのが、どれほどバカバカしいか、思い知ったそうだ。
 彼は、能力のことを親に話した。
 そして誰のそしりも受けないような、立派な人間になろうと決意した。
 だからと言って日本まで来るのは、彼も、彼の家族にとっても、大変な決断だったろう』

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 ライブ映像ではティモシーは、動かなくなったバスに組みついていた。
 バスと言っても、周りには鉄板が、窓には鉄の格子が溶接されている。
 前面には、ビルの柱に使われるH鋼材が槍ぶすまのように並び、バンパー代わりに太いゴムタイヤが鎖で縛りつけてあった。
 ティモシーは、その窓を覆った格子を引きちぎり、ガラスを割ると、中で気絶している運転手を引きずり出した。
 さらに奥の窓をのぞいて無人なのを確かめると、やおらそのバスを持ち上げた。
 全長10メートル強のバスが、その重さでしなった。もう車としては使えないだろう。

 その横を、畳大の燃える板が飛んで行った。
 文字道理、屋根をさらう暴風。
 その風を利用し、ちぎれかかった翼に受けて、地中竜の一体が突貫を始めた。
 大砲のような足音を響かせ、家々をなぎ倒して向かってくる。
 
 ティモシーが、負けないほどの足音を響かせ、地中竜に向かう。
 振りかざした装甲バスは、その加速を受け、投げ槍のように飛んで行った!
 巨大な鉄の塊が、粉々になる音。燃料が一瞬で炎に変わる音が響き、地中竜を押し倒した。