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レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物

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 あるトラックの荷台には重機関銃が。もう1台には連装ロケット砲がすえつけられ、絶え間なく火を放っている。
 そんな彼らに、次々に銃弾が撃ち込まれた。
 真っ先に、重機関銃を操る隊員が肩を打ち抜かれ、その場に崩れ落ちた。
 次に、ロケット砲の隊員に。
 彼らが上げた恐ろしい悲鳴。
 それが周りの隊員の気をひいた。

 燃え残った塀の影に、一瞬で駆け込んだ有希の姿が。
 左足は曲げ、右足は大きく右へ開き、上半身を左へ倒している。
 そうすれば地面すれすれに、車の下越しに銃を撃てる。
 機械的で迷いのない動きがはっきり見えた。
 右手でグリップを。左手で銃口近くのハンドガードを握っている。

 まず、手前にいた隊員が足をおさえて倒れた。
 手を突けばそこから力がうばわれる。
 有希の射撃が、効率的に相手を無力化していく。
 
 他方では、アランの電撃か、ティモシーの怪力とそこから生まれる戦火が、夜の闇を染め上げる。
 その染められた夜が、今度は無数の影に覆い尽くされた。
 
 空中を埋め尽くす影は、鳥。
 しかも、鋭いくちばしと鍵爪を持つ、猛禽だ。
 地上も、唸り声を上げながら駈ける獣に覆い尽くされた。
 突如現れた群れは、協力して地域防衛隊に襲いかかった。
 シロフクロウのカギヅメが、突き出された銃をとらえ、空へ奪い去る。
 オオワシのくちばしが、隊員の守られていない皮膚、つまり顔を貫く。

 地上で敵陣を取り囲むのは、灰色の毛並みのタイリクオオカミの群れだ。
 人間の腰の高さに、無数の牙がぎらつく。
 その群れには、いるはずのない仲間がいた。
 黒い毛並みに、分厚い筋肉を持つ、ヒグマ。
 その重さだけで人間を突き刺せそうな角を持つ、ヘラジカ。
 そして俊敏に家の屋根から屋根へ駆けまわりつつ、油断なく見張る、アムールトラ。
 極寒のシベリアゆえの、黄色に黒い縞の入った長い毛皮が、風邪に波打った。

 群れの一番奥、オルバイファスから大して離れていないところから、1人の女性が進みでる。
 背は高く、2メートル近い。
 広い背中には陸軍のベスト。ボタンは豊満な胸ゆえ、止められなかった。
 手には、銃身をのばしたボルボロス小銃。
 カメラに映ったのは横顔だけだが、不敵な笑みはしっかりとみえた。
 のばしたクリーム色の髪を後頭部で左右に分け、2つの輪に丸めている。
 その二つの輪が、激しく揺れていた。
 
 その揺れは風だけではなく、彼女自身から放たれるもので起こっている。
 悠然と歩を進める彼女から、異能力が、この群れがはなたれている。
  
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

「格闘部部長、テレジ・イワノフ。趣味は狩猟。
 能力は、これまで自分が狩った動物の実態ある幻を作りだせる」
 語り始めたのは、シエロだった。
 よどみなく、なめらかに。

 シエロには、物語でよく出る嫌いな言葉があった。
 (いま行われたことは、必ず歴史が判断するだろう)という物だ。
 それも、自分が好きで見る戦記物で、しかも兵士役の、しかも主人公がよく言う。

(これまでは、それが嫌で仕方がなかった)
 シエロは、戦争とは相手の政治形態を根こそぎ変えさせることだと考えていた。
 仲間と、自らの命と引き換えに。
 文字道理かけがえのないことだと。
 ゆえに、その実行と、戦後どのようにしていくか、慎重に準備しなくてはならない。
 戦後に裁判に明け暮れるようでは、何も決められない。そう思っていた。

 だが、魔術学園生徒会と、彼らを追って来た者達を見ていると、自分の中に何かが芽生えるのを感じた。
(いや、芽生えたというより、まだ種のような物かもしれない)

 カーリタースにすべてを押し付け、量子世界に引きこもった科学者たち。彼らはチェ連の危機を救うため、生徒会を召喚して乗り切ろうとしたという。
 同じような決定をした異世界は、他にもあるらしい。
 そして、それを行う異能力を操るのは、強い人の意思であるとも聴いた。
(もしかすると、そんな意志の力がどこかにたまるか、エスカレートしたのかも。そう思うと笑えてくる)
 以前には思いもよらなかったことが、次々にわいてくる。

(今なら、これまで敵対してきた三種族のために。父さんが身を投げ出した気持ちがわかる気がする)
 今だから知ったこと。生みだせた種を、いつか芽生えさせたい。
 たとえ好みが力尽きても、誰かに受け継いでもらいたい。
(そうか。これが歴史に判断させるという事! )

 その時、達美専用車がゆっくりととまった。
「待機場についたよ~」
 ドラゴンメイドが言った。
 今いる乗客席に、窓は無い。

「外の様子が見たい」
 シエロのそのつぶやきが、頭のまわりの光景を切り替えた。
 達美専用車の表面に張り付けられた、シート状カメラによる全方位映像に。
 そこは、見たことのないスタジアムだった。
 足元には立派な芝生。その周りを円形に囲むのは、万単位の収納人数がありそうな、観客席。
 そのすぐ向こうに、観覧車が見えた。
 かつてフセン市にあった遊園地。
 そのレプリカだ。
 その証拠に、足元の芝生は、どこもめくれていない。
 そこには、PP社の戦力。ドラゴンドレスマーク7と6。オーバオックス。キッスフレッシュ。10式戦車。マークスレイ。そして多数のSUVが並んでいた。
 その向こうに立ち並ぶのは、トラックコンテナを積み上げた臨時の施設。会議室や休憩場。ほか整備工場など。

『我が秘書たちも、ついたぞ』
 一番端だった達美専用車。
 その隣に、マイルド・スローンが駐車した。
 現実世界とは対照的な、晴れ渡った空が、銀色の岩のようなSUVを輝かせる。
 その隣にはジャニアル・アイが。
 4つのローターをタイヤに変形させ、支柱を純白の機体に収めながら着地した。

「これより、生徒会を召喚した科学者の元へ突入します。先陣はメイトライ5。チェ連の士官候補生の皆さんには、司令部で見届け人となっていただきます」
 1号がそう言って立ち上がった。
「では、全員下りてください」
 その後ろでは、2号が後部ドアを開けている。
「夏の火鉢、旱(ひでり)の傘! 」
 そして、自分の座右の銘を唱えた。
 「夏に火鉢を抱くような、旱に傘を差すような、無駄とも思える忍耐をしなければ、部下はついてこない」という言葉。

 それに従って、皆が立ち上がる。
 これから、いよいよすべての黒幕。
 科学者たちの元へ踏み込むのだ。
 
 ところが。
「待ってください! 」
 ドラゴンメイドに止められた。
「決して時間のかかる事ではありません。ボルケーナお義姉ちゃんから賜った映像を見てください! 」
 彼女は立ち上がり、期待を込めて皆を見回した。
「信じて……」