レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物
オルバイファスの後部傾斜版を駆け下りる一団。
黒い雨合羽が幾つもひらめいた。
先頭を行く一人は、その上にチェ連陸軍の革ベストを重ね着している。
小銃の弾倉や手榴弾を満載した。
ただし、やけにきつそうに張り出していた。
手にしたのはチェ連製のボルボロス自動小銃。その銃身を短く切り詰めた、カービンタイプ。肩当は無かった。
そして手は、金属の間接やモーターがむき出しの義手だ。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
『文化祭実行委員会――』
オルバイファスの紹介が、いつもどうり始まろうとした。
だが。
『待ってください! 』
通信越しに、サフラに止められた。
『急襲チームについては、私たちに説明……いえ、復習のために話させてください』
ほほう、とオルバイファスが興味深そうにつぶやいた。
他の面々も、驚いて目を見張る。
『いいだろう。では彼は? 』
オルバイファスはそう言ったが、先頭を走っていた男は、影も形も見えなくなっていた。
新たなウインドウが開く。
その中に彼はいた。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
先頭を行くサイボーグの顔は、人間の形をしていた。
後でまとめられた、脇下まで届く黒髪。
ほっそりした面持ちに、大きな目。
かわいい。という感想を抱く顔立ち。
その首元から、不自然な長い影が飛びでている。
先端に3本の指を持つ、機械でできた長いアームだ。
関節は布で覆われている。
その装甲は、刀のように鋭かった。
ウインドウの中で、サイボーグは前方の敵めがけて駆けだした。
駈けだした、と言っても一歩一歩の帆幅が大きい。
ジャンプを繰り返している感じで、その動きは水中を歩く姿にそっくりだ。
見れば、周りの人間も、炎も瓦礫も、微動さえしていない。
彼は、実際には目にもとまらぬ高速で走っている。
その際の空気抵抗は、彼にとっては水中を歩いているのと変わらない。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
そんな彼を、オルバイファスのセンサーだけが追っている。
『文化祭実行委員長、入船 有希』
サフラは、よどみなく答えた。
『能力は、時間の流れを変えること。
自らの時間を加速すれば、高速移動。
さらに周囲の時間を止めれば、相手の動きを止めることもできる。
また、物理法則を捻じ曲げる事にもつながるため、異能力を無効化できる』
オルバイファスが採点する。
『よし。正解だ。次はプロフィールも言ってみろ』
ウインドウが消え、ライブ映像だけになった。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
道に並ぶ消火栓が次々に叩き斬られた。
水が噴水の様に吹き出す。
人間が見ただけでは、何の前触れもないように見えるが、誰が原因かは明らかだ。
あの、刃の装甲を持つ背中のアーム。
激しい水流に、押し流される防衛隊員が続出した。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
『入船君は、その能力の便利さのため、幼いころ人身売買組織に誘拐されています』
サフラの説明は続く。
『そして犯罪の凶器として、サイボーグに改造されました』
映像の中で、自国民が混乱に陥っている。
その光景を見て、感情がうずかないわけではない。
握り締めた手。顔を伝う汗がそれを訴える。
『今はドラゴンメイドと同じサイボーグボディを使っていますが、以前は人間とも思えない姿でした』
パチパチパチ
ドラゴンメイドが、満足そうに拍手を送った。
「一つ補足するとね、彼のボディは実験機である私やワイバーンの物と違って、エネルギーを生み出す人工内臓は旧式なの。ワイバーン君、説明の方を」
「ええっ? 今は仕事中だよ!? 」
ワイバーンはドラゴンメイドを深く愛しているが、仕事自体は真面目だ。
彼が見ているモニターでは、未だ続くフセン市の戦いが。
ドラゴンメイドのモニターには、市役所だけでなく付近の大型施設の様子を集中して映している。
チェ連で大型施設と言えば、人工の小山のようなシェルターか、広大な地下施設を意味する。
臨時病院などの複合施設として使われていた。
一応、それを見るドラゴンメイドの視線は微動さえしていない。
それが彼女に与えられた機能だからだ。
だが、その態度はどこまでも上機嫌だ。
それを見たチェ連人達の心に、ネコの習性の一つが思い出された。
ネコが人間をじっと見つめる時、考えていることは。(こいつには勝てる)
熱い怒りが沸き起こった。
だが同時に、それを消し去る冷たさも沸き起こった。
ドラゴンメイド自身は、この星に希望を生みだせるとは考えていない。そう悟った。
希望を生みだせる者達は、日本へ送り届ける。
その後は、目先の敵を倒せばそれでいい。
そう考えているに違いない。
『よせ。ドラゴンメイド』
止めたのはオルバイファスだ。
『説明は我が行う。お前たちは、自分の仕事をせんか! 』
チェ連人達は思った。
この機械巨人の説明も意味不明だ。
今も戦いの最中なのに、なぜそれに集中しないのか。
そんなものは並列処理で、片手間でいいと思っているのか。
それとも、本当にチェ連人に、この戦場の事を知ってもらいたいと思っているのか?
そんな士官候補生たちの心を知っているのか知らないのか、オルバイファスの説明は続く。
『……確かに、入船のボディは量産品で、人工内臓はすべて機械式なのだ。
基本構造こそ同じだが、ドラゴンメイドのような魔法や、ワイバーンの自己進化機能による強化が加えられていない』
再び現れる、時間を操って加速する有希の映像。
その姿が一番大きくなったところで一時停止した。
『服の内側に、肉体ではない分厚い物があるのがわかるか。
ボディに増設された、大容量のリチウムイオンバッテリーだ。
背中に入っていったオプションパーツも、試作機のようなジェットパックではなく、最も消費電力の少ないサブアームだ』
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
再びライブ映像。
陣地を崩した防衛隊へ、カマキリ型異星人、カーマが踏み込んだ。
二丁のサブマシンガンが火を吹き、車の燃料タンクを打ち抜く。
キノコ型の炎がまいあがった。
カーマはそのまま陣地の上を突っ切り、時々消火栓を蹴ってへし折りながら、他の敵を探す。
後には、青鬼の様な異星人、ディミーチが突っ込む。
ハルマードが電柱を次々に倒し、大通りを分断した。
『逃げるな! 戦え! 』
それでも攻撃は弱まらない。
防衛隊は、オルバイファスの後ろに回り込み、建物に潜んでいた。
路地裏から、燃え残った家の窓から、銃撃を再開した。
大きめの光はロケット砲だろう。
だがそこで、紫電が空間を満たし、弾道を阻んだ。
黒い肌の少年が、右手から放った。
髪は茶色がかった黒。
黒い雨合羽が幾つもひらめいた。
先頭を行く一人は、その上にチェ連陸軍の革ベストを重ね着している。
小銃の弾倉や手榴弾を満載した。
ただし、やけにきつそうに張り出していた。
手にしたのはチェ連製のボルボロス自動小銃。その銃身を短く切り詰めた、カービンタイプ。肩当は無かった。
そして手は、金属の間接やモーターがむき出しの義手だ。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
『文化祭実行委員会――』
オルバイファスの紹介が、いつもどうり始まろうとした。
だが。
『待ってください! 』
通信越しに、サフラに止められた。
『急襲チームについては、私たちに説明……いえ、復習のために話させてください』
ほほう、とオルバイファスが興味深そうにつぶやいた。
他の面々も、驚いて目を見張る。
『いいだろう。では彼は? 』
オルバイファスはそう言ったが、先頭を走っていた男は、影も形も見えなくなっていた。
新たなウインドウが開く。
その中に彼はいた。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
先頭を行くサイボーグの顔は、人間の形をしていた。
後でまとめられた、脇下まで届く黒髪。
ほっそりした面持ちに、大きな目。
かわいい。という感想を抱く顔立ち。
その首元から、不自然な長い影が飛びでている。
先端に3本の指を持つ、機械でできた長いアームだ。
関節は布で覆われている。
その装甲は、刀のように鋭かった。
ウインドウの中で、サイボーグは前方の敵めがけて駆けだした。
駈けだした、と言っても一歩一歩の帆幅が大きい。
ジャンプを繰り返している感じで、その動きは水中を歩く姿にそっくりだ。
見れば、周りの人間も、炎も瓦礫も、微動さえしていない。
彼は、実際には目にもとまらぬ高速で走っている。
その際の空気抵抗は、彼にとっては水中を歩いているのと変わらない。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
そんな彼を、オルバイファスのセンサーだけが追っている。
『文化祭実行委員長、入船 有希』
サフラは、よどみなく答えた。
『能力は、時間の流れを変えること。
自らの時間を加速すれば、高速移動。
さらに周囲の時間を止めれば、相手の動きを止めることもできる。
また、物理法則を捻じ曲げる事にもつながるため、異能力を無効化できる』
オルバイファスが採点する。
『よし。正解だ。次はプロフィールも言ってみろ』
ウインドウが消え、ライブ映像だけになった。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
道に並ぶ消火栓が次々に叩き斬られた。
水が噴水の様に吹き出す。
人間が見ただけでは、何の前触れもないように見えるが、誰が原因かは明らかだ。
あの、刃の装甲を持つ背中のアーム。
激しい水流に、押し流される防衛隊員が続出した。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
『入船君は、その能力の便利さのため、幼いころ人身売買組織に誘拐されています』
サフラの説明は続く。
『そして犯罪の凶器として、サイボーグに改造されました』
映像の中で、自国民が混乱に陥っている。
その光景を見て、感情がうずかないわけではない。
握り締めた手。顔を伝う汗がそれを訴える。
『今はドラゴンメイドと同じサイボーグボディを使っていますが、以前は人間とも思えない姿でした』
パチパチパチ
ドラゴンメイドが、満足そうに拍手を送った。
「一つ補足するとね、彼のボディは実験機である私やワイバーンの物と違って、エネルギーを生み出す人工内臓は旧式なの。ワイバーン君、説明の方を」
「ええっ? 今は仕事中だよ!? 」
ワイバーンはドラゴンメイドを深く愛しているが、仕事自体は真面目だ。
彼が見ているモニターでは、未だ続くフセン市の戦いが。
ドラゴンメイドのモニターには、市役所だけでなく付近の大型施設の様子を集中して映している。
チェ連で大型施設と言えば、人工の小山のようなシェルターか、広大な地下施設を意味する。
臨時病院などの複合施設として使われていた。
一応、それを見るドラゴンメイドの視線は微動さえしていない。
それが彼女に与えられた機能だからだ。
だが、その態度はどこまでも上機嫌だ。
それを見たチェ連人達の心に、ネコの習性の一つが思い出された。
ネコが人間をじっと見つめる時、考えていることは。(こいつには勝てる)
熱い怒りが沸き起こった。
だが同時に、それを消し去る冷たさも沸き起こった。
ドラゴンメイド自身は、この星に希望を生みだせるとは考えていない。そう悟った。
希望を生みだせる者達は、日本へ送り届ける。
その後は、目先の敵を倒せばそれでいい。
そう考えているに違いない。
『よせ。ドラゴンメイド』
止めたのはオルバイファスだ。
『説明は我が行う。お前たちは、自分の仕事をせんか! 』
チェ連人達は思った。
この機械巨人の説明も意味不明だ。
今も戦いの最中なのに、なぜそれに集中しないのか。
そんなものは並列処理で、片手間でいいと思っているのか。
それとも、本当にチェ連人に、この戦場の事を知ってもらいたいと思っているのか?
そんな士官候補生たちの心を知っているのか知らないのか、オルバイファスの説明は続く。
『……確かに、入船のボディは量産品で、人工内臓はすべて機械式なのだ。
基本構造こそ同じだが、ドラゴンメイドのような魔法や、ワイバーンの自己進化機能による強化が加えられていない』
再び現れる、時間を操って加速する有希の映像。
その姿が一番大きくなったところで一時停止した。
『服の内側に、肉体ではない分厚い物があるのがわかるか。
ボディに増設された、大容量のリチウムイオンバッテリーだ。
背中に入っていったオプションパーツも、試作機のようなジェットパックではなく、最も消費電力の少ないサブアームだ』
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
再びライブ映像。
陣地を崩した防衛隊へ、カマキリ型異星人、カーマが踏み込んだ。
二丁のサブマシンガンが火を吹き、車の燃料タンクを打ち抜く。
キノコ型の炎がまいあがった。
カーマはそのまま陣地の上を突っ切り、時々消火栓を蹴ってへし折りながら、他の敵を探す。
後には、青鬼の様な異星人、ディミーチが突っ込む。
ハルマードが電柱を次々に倒し、大通りを分断した。
『逃げるな! 戦え! 』
それでも攻撃は弱まらない。
防衛隊は、オルバイファスの後ろに回り込み、建物に潜んでいた。
路地裏から、燃え残った家の窓から、銃撃を再開した。
大きめの光はロケット砲だろう。
だがそこで、紫電が空間を満たし、弾道を阻んだ。
黒い肌の少年が、右手から放った。
髪は茶色がかった黒。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第26話 今しか見えない物 作家名:リューガ