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「しかも上手くごまかすと十円まけてくれるんだよ」
「ごまかすって、それ、ダメじゃないですか」
「ちがうんだよ、それもパフォーマンスの一部でさ」
「肝心の蕎麦は美味いんっすか？」
「まあ、百六十円だからなぁ、出汁はカンナ屑だよ……こっちの居酒屋はまともだぜ」
「あ、ちゃんとした店あるんじゃないですか、ここにしましょうよ」
「そうするか……ごめんよ、邪魔するぜ」

「へ～い、出来ますものは汁貝柱鱈昆布鮟鱇のようなもの……」

「え？　子供？」
「まあ、小僧さんだな」
「それって労働基準法違反じゃないですか？」
「まあ、子役タレント扱いで夜九時まではOKなんだよ、ほら、メニュー見ろよ」
「ありがとうございます……酢豆腐ってなんっすか？」
「豆腐にカビが生えてるやつ」
「え？　大丈夫なんですか？　そんなもの食べても」
「大丈夫じゃないよ、だからほら、メニューの横にちゃんと書いてあるだろう？　医者にかかっても治療費は請求しませんって誓約書を書いてから食うんだ」
「そんなの食う人いるんっすか？」
「まあ、話のネタにな」
「目黒の秋刀魚定食って？」
「ああ、それはお奨めだな、真っ黒だけどな」
「え？　どうして？」
「囲炉裏のおきに直接突っ込んで焼くんだよ、見た目は良くないけど美味いぜ」
「じゃ、俺、それにします……随分でかい盃が飾ってありますね」
「ああ、あれはただ飾ってあるわけじゃないんだ」
「え？　あんなの使う人がいるんですか？　一杯で一升ぐらい入りそうですけど」
「あれで一気に五杯飲むと小遣いがもらえるんだよ、やってみるか？」
「一度に五升ですか？　そりゃ無理っすよ……」
「だろうなぁ、こないだ挑戦して救急車で運ばれた人がいたからな」
「無茶するなぁ……先輩は何頼むんですか？」
「そうだな……花見弁当にするかな」
「豪華そうですね」
「それが違うんだよ、ダイエット弁当なんだ」
「え？　そうなんですか？」
「たくあんを卵焼き、大根の漬物を蒲鉾だと思って食うんだ」
「新しいダイエット方法ですね……ここ、みやげ物も売ってるんですね、番傘って渋いなぁ、一本買って行こうかな」
「たまにハズレが混じってるけどな」
「ハズレって何っすか？」
「ビリビリに破れてるのが混じってるんだよ」
「それってクレームにならないんっすか？」
「洒落だよ、洒落がわからないとここは楽しめないんだよ」
「あれ？　向かいは銭湯ですか？　湯って書いてありますけど」
「そうそう、混浴なんだよ」
「混浴いいっすねぇ……入りたいな」
「でも入ってるの婆さんばっかりだよ」
「……そうでしょうねぇ、ここの客層そのものが年齢層高いですからね、これでやっていけるのかな……」
「違うんだよ、今は爺さん婆さんのほうが金持ってるからな」
「あ……そうかもしれないですね」
「それと、湯が熱いよ」
「そうなんですか？」
「四十七度くらいはあるかなぁ、でもうめようとすると怒られるんだよ」
「やっぱり入るの止めます……あ、来た来た、本当に真っ黒ですね」
「でも炭火焼だからさ、食ってみろよ」
「じゃ……あ、ホントだ、美味いっすね、これ」
「そうだろう？」
「でもやっぱりちょっと焦げ臭いや……お姉さん、お茶をお願いします……すみませ～ん、お茶下さい……ひでぇなぁ、誰も振り向きもしないや」
「だめだめ、ここじゃ別の頼み方しないとお茶はもらえないんだよ」
「どうやるんですか？」
「こう言うんだ……あ～、今度はしぶいお茶が怖い……」

　おあとがよろしいようで。