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貴方に逢えて

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8





人生の中で
生まれて初めての
”告白”


ドキドキと胸を弾ませ
何かを期待するような
告白ではない


独りよがりの
身勝手な告白である


それでも
恭一に惹かれていた時間は
嘘ではなく


喩え 横恋慕であれ
真剣に恋心を抱いた


何度も諦めようとも
想ったし


何度も気持ちを
押し殺してきた


”告白”をすると決意し
恭一に予定を伝えた後も


何故だろう
心が痛い



淡々と仕事をこなしていても
涙が零れそうになる


こんなに辛い
”告白”なら
しない方がいい


複雑な心が
ギシギシと軋む


作業が 長引けばいい
仕事が 終わらなければいい


願っても作業する手は
止まらない


梱包されてゆく荷物が
ひとつひとつ荷台に吸い込まれ
重量班のトラックが
引越し先へ出発する頃には


精魂使い果たし
何十時間も
働き続けたような
重苦しい疲労だけが
麻衣に残った



荷物を運送し
新現場へ設置した機材に
誤作動がない事を
確認した依頼主から
サインを貰い


連なって並ぶ
トラックへ戻る頃には
陽も すっかり落ち


トラックの中に敷かれた
毛布類が畳まれると
扉の閉まる金属音が
夕闇に響き渡る


あちらこちらから
「お疲れ」の声


トラックに乗り込もうとした恭一が
振り返り
麻衣の方へ
歩いてくる


「お疲れ」


精一杯の笑顔で
麻衣は恭一に声を掛けた


「お疲れ様でした
 で どうします?」


麻衣との約束を
忘れていない恭一の言葉が
胸に優しく届く


「帰り道だし
 そっちの事務所に寄るから
 駐車場で待ってって」


手を額に翳し
”了解”を示す恭一が
最後になるかも知れない
優しい笑顔で手を振った


事務所に戻り
事務員達に
斉藤の容態を尋ねたが
進展はないと言われた


小さな溜息が漏れる


ロッカーから荷物を取り出し
携帯のアドレス帳から
斉藤の名前を開き


”告白してくるよ”


斉藤から貰った
勇気だけを胸に


頑張っている斉藤へ
麻衣は無言の報告をした


逃げ出したい心を
しっかりと斉藤に
見守って貰う為に


そして
どうか斉藤も
病に勝ってくださいと
祈りを込めて
 


以前 働いていた支店まで
車で20分程の距離


躊躇している暇もなく
通い慣れた道に
辿り着く


何年も自転車で通った
細い路地は
まるで時が止まったように
何も変わっていない


一瞬
車から眺める景色に
寝癖のついた
短髪だった麻衣が
自転車を漕ぐ幻が見え


髪を肩まで伸ばした麻衣が
恭一とふざけて笑っている場面が
映り込み


胸まで伸びた髪を靡かせ
クルクルと指先に絡め
片想いに頬を染める麻衣が
歯に噛んで微笑み


彼女の元へ
帰ってゆく恭一の背中を
寂しげに見送る麻衣が居る


長い長い
片想いの道には
沢山の思い出が
溢れている気がした


作品名:貴方に逢えて 作家名:田村屋本舗