貴方に逢えて
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鏡を覗き込むたび
溜息が出る
短く切った髪が
情けないくらい
童顔を強調し
深爪の指先
乾燥する肌
若々しくないのは
職業柄ではなく
手抜きをしていた
スキンケアだと
麻衣は再度
溜息を零した
新人”恭一”の存在が
恋心ではなく
麻衣自身が
女性である事を
改めて再認識する
無意味に化粧臭い
パートのオバサンが
生き生きとした女性に思え
腹の中で笑っていた事を
少し反省する
決して 麻衣も
女を捨てていた訳ではないが
仕事内容が面白く
汗が滲む作業と
埃に塗れ
気合を入れた化粧は
現場では不釣合いに思っていた
まして若さもあり
化粧をする事で
女性アピールをするのも
女性扱いされる事も
嫌っていたような気がする
何年も月日を重ね
正社員になれた麻衣
血の滲む努力とまでは
いかないが
誰もが嫌がる仕事でも
率先して引き受けてきた経過が
上司に認められた結果でもある
男女平等とは言え
軽作業と重量作業では
男性優位の職場である限り
足掻いてみても
体力差だけは
どうにもならない
元鳶職の経歴を持つ”恭一”は
重量班の中でも
作業の飲み込みが早く
テキパキと仕事をこなす姿に
あっという間に信用を築き
いつしか頼られる存在に
昇格していた
実際 現場に出て
要領よく仕事が進むのは
悪い事ではなく
麻衣にとっても
仕事が捗る分
恭一と同じ現場に出る事は
心成しか余裕が持てた
何よりも 恭一は明朗な人物で
恭一がいるだけで
現場の雰囲気が 楽しくなる
そんな恭一を見ていて
後輩でありながら
麻衣は 人として
恭一に憧れを抱き初めていた
”生真面目な堅物”
片意地を張っている訳じゃない
麻衣のイメージは
何事にも冷めていて
真面目すぎるらしく
冷静沈着
何時から
こんな性格になったのか
解らないけれど
自分の誕生日も
認識できない
たった一人の兄がいれば
無意識に
しっかりしなければと
背筋を伸ばしてしまう癖が
身についてしまったのだろう
だから 尚更
表情も豊かで
中心になって皆を笑わせたり
おもいきり自分を楽しんでいるような
恭一を見ていて
麻衣も
そうなりたいと思った
自分に無いモノを
沢山持っているように見え
憧れていたのでしょう
恭一を見ている事が
麻衣にとっても
幸せな時間だった
憧れは 憧れのまま
先輩後輩の枠から
はみ出さないよう
憧れ続けたのは
恭一には
ずっと以前から
長年 付き合っている
彼女が いるから
憧れ以上の感情はないと
自分に言い聞かせる
だから
”憧れ”なのでしょう
短かった髪も
耳が隠れるようになり
ボブカットに揃えた髪
恭一を憧れていた
時間の分だけ
僅かばかり
麻衣を女性に戻す
乾燥した肌も
潤いを取り戻し
御洒落なネイルアートまでは
いかないけれど
深爪の指先も
爪磨きで光沢する程
気を遣うようになっていた