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われらの! ライダー!(第二部)

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3.番外編:人知れず咲く



     
(引き続き2016.08 お題:『煙草』、『落し物』、『家族写真』 番外編、志のぶの曾々祖母の話です、写真がはらりと落ちる、というシーンで無理やりお題二つをクリア……したことにしてくださいw 煙草はまたもや使いませんでした、この月に『ニコチン中毒患者の悲哀』という実感をこめた作品を書いたので煙草は吸いすぎで……)


われらの!ライダー! 番外編 『人知れず咲く』


「志のぶ、お祖母ちゃんの部屋整理してたら日記帳が出てきたのよ」
 実家の母からの電話だ。
 志のぶは家族の反対を押し切り、駆け落ち同然に剛と一緒になったことで、長らく実家とは縁遠くなっていたが、祖母の葬儀の際に久しぶりに実家を訪れた。
 今の剛が『仮面ライダー・マッスル』であると明かすわけには行かないが、志のぶの明るい様子を見た両親はもう何も言わず、とにかく今が幸せならばそれで良いと認めてくれたようだ。
「日記帳? ふぅん、でも、どうしてそれを私に?」
「油紙できっちり包んであってね、お祖母ちゃんのメモが貼り付けてあったの」
「どんなメモ?」
「そのまんま読むね……『とっても素敵な日記だよ、でもね、誰が読んでも良いってもんじゃない、巻物を相続した者が読んでおくれ……にんにん』」
「最後の『にんにん』は何なの?」
「ちょっと旧いアニメの決め台詞」
「ふふふ……お祖母ちゃんらしいね」


O(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


『この日記を手にしたのはきっと志のぶだろうね、あたしはそう思ってるよ、これはあたしのお祖父ちゃん、お前から見ればひいひいお祖父ちゃんの日記帳だよ、お祖母ちゃんがくの一だったことは教えたね? お祖父ちゃんは警察官だったんだよ、二人は歳をとってもラブラブでねぇ、孫のあたしから見ても照れちゃうくらいだったよ、でもね、この日記を読めばお祖母ちゃん、お前のひいひいお祖母ちゃんに惚れ込んでた理由がわかるよ。 お前の父さん、母さんは堅物だから、お前が親の言うことも聞かずに定職にも就かない乱暴者と結婚したって、プンプンだけどね、あたしにはわかるよ、きっと強くて優しい、い~い男なんだろう? お前もひいひいお祖母ちゃんを見習って、もっともっと惚れさせておやり……ヒャッハー!』

「おい、どうした? 椅子から転げ落ちたりして、大丈夫か? 怪我はないか?」
「大丈夫、ちょっとズッコケただけ」
 心配顔の剛を見ると、お祖母ちゃんの人を見る目は確かだと思う……。
 そして日記帳を開くと、一枚の写真がひらりと落ちた。

参考URL https://matome.naver.jp/odai/2138017527544117201/2138301166929033703

「わぁ……なんて綺麗なの……」
「何々? ほう、これは美人だな、誰なんだ?」
「私のひいひいお祖母ちゃん」
「道理で美人なわけだ……」
 満足そうな剛を見ると、『これ以上惚れさせる』ことは難しいような気がするが……。

 志のぶは日記帳を開いた……。


O(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


 志のぶの高祖父、佐藤徳三郎は下級武士の家の生まれ、明治になってからは巡査となり、真面目で公正な勤務態度と卓越した剣術の腕前、そして明晰な頭脳を買われて若くして一級巡査まで昇進していた。
 そして、直属の上司である警部はしばしば鹿鳴館の警備を任されていた。
 鹿鳴館……外国からの賓客をもてなすために建設された豪華な洋館、そこで催される舞踏会には内外の華族、要人やその妻、令息、令嬢が集う。 当然厳重な警備が必要だ。
 反面、舞踏会なのだから物々しい警備はそぐわない、それゆえに知性と教養を備え、それでいて腕の立つ警官を招待客の中に紛れ込ませ、警官隊は鼠一匹通さないように外を固める、と言う手段が取られている。
 徳三郎は外での警備は何度も経験しているものの、鹿鳴館の中に入るのは初めて。
 簡単な英会話やマナーなどは即席で叩き込まれたが、ダンスはどうにも苦手だ。
 基本のステップなどは覚えこんだものの、どうにも動きが固く、優雅に踊るとまでは到底行かなかった。
 徳三郎はなかなかの美男子でもあったので、外国人令嬢からのダンスの誘いも何度かあったし、女性からの誘いを断るのは失礼千万であると釘を刺されていたので、何曲かは踊った、しかし、リピーターは現れなかった、まるでロボットと踊っているようなものだったから……。
 まあ、しかし、踊らなくて済むのは任務の上でも好都合だ、壁を背にしてくまなく目を光らせている必要があるのだから……。

 その徳三郎の目が、一人の女性に釘付けになった。

 ぱっちりとした瞳とどことなくふくよかで柔らかな印象のある輪郭、日本女性の美と西洋女性の美を足したような、どこかキリリとしながらも可憐な顔立ち。
 日本人には洋風に見えるが、西洋人から見れば日本髪に見えるであろう髪型も、そんな彼女にはぴたりと似合う、西洋人男性からのダンスの誘いがひきもきらないのも当然のことと思えた。
 そして、そのダンスもまた見事……男性のリードに任せるかのように振舞いながらもその足元は軽やかに宙を舞い、相手の男性をもダンス上手に見せてしまうほどだ。
 
 鹿鳴館の舞踏会には近隣の芸妓も少なからず動員されていると聞く。
 華族や要人の女性には西洋式のダンスが踊れない女性も多く、また、いかに海外からの要人やその子息であろうと、見知らぬ男性と体を密着させて踊ることに抵抗を感じる女性も多かったからだ。
 彼女の顔は徳三郎が頭に叩き込んでいる要人の顔のどれとも一致しない、おそらくは彼女も動員された芸妓の一人なのだろう……。
 任務に忠実な徳三郎はホールをくまなく見回そうと心がけるが、彼女が視界に入るとつい見つめてしまう……その度に徳三郎の胸は高鳴り、もし目が合えば図らずも赤面してしまうかもしれない、それはどうにもみっともないことだ……。
 しかし、彼女が踊りながら徳三郎のすぐ近くまで来た時に丁度曲が終わり、相手の男性に恭しく一礼した彼女は、踊っている時と変らぬ軽やかな足取りで徳三郎の横にやってきた。

「踊らないのですか?」
 その声もまた魅力的……りんりんと鳴る鈴のようだ。
「あ、いや、苦手なのです」
 徳三郎が正直に答えると、彼女はにっこりと笑った。
「舞踏会の雰囲気に溶け込めないと、次の警備からは外されてしまいますことよ」
「えっ?」
 徳三郎が驚いたのも無理はない、警官が内部にも配属されていることは表向き秘密、自分も警察の制服ではなくフロックコートに身を包んでいたのだが……。
「お察しの通り、わたくしも芸妓ですの」
 またまた驚きだ……目は合っていない筈なのに、なぜ彼女を見ていたことがわかるのだろう……。
「君は……」
「わたくしは芸妓、それでよろしいではございませんか、そんなことより、わたくしと一曲お付き合いお願いできませんでしょうか?」
「あ、いや、その……」
「大丈夫、わたくしがリードさせて頂きますから」
 徳三郎に有無を言わせず、手を取ってダンスの輪の中へ……。