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われらの! ライダー!(第二部)

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「もう少し密着なさって……リズムに乗るのはお上手ですわ、でももう少し滑らかにリズムを取られると……そうです、ステップは丸く円を描くように……そうですわ、ぐんとお上手に……」
 胸の高鳴りは最高潮、ガチガチに緊張もしていたが、彼女の言うとおりに踊ってみると確かに気持良く踊れる……そして彼女の抱き心地と言ったら……柔らかなのに芯があり、まるで体重がないかのように軽やか……。
「私は佐藤徳三郎と言います、君は?……」
「志づと申します」
 その瞬間には徳三郎は既に恋に落ちていた、鮮やかな恋に……。
 
 その時だった……。
「ドォーン!」

 正門の方から爆発音が響き、徳三郎を夢見心地から引き戻した。
「すみません、行かなくては!」 
「いえ、行ってはなりません!」
 即座に外へ向かおうとした徳三郎の手を、志づはしっかりと掴んで言った。
「え?」
「鬨の声が上がりません、おそらくは囮のための爆音です」
「あ……そうか」
「あなたはここを離れてはなりません、この中の方々をお守りするのです」
「確かにその通りだ、しかし、君は一体……」
 その質問には答えず、志づは耳をそばだてている。
「正面の警官隊が正門に向かっています、賊はその隙を突いて突入するつもりなのでしょう」
「そうか!」
「賊はざっと二十名ほど……手薄になった警官隊では防ぎきれません……来ます!」
 その言葉が終わるか終わらないかの内に玄関扉が破られた。

「西洋かぶれの逆賊、井上馨! 成敗いたす!」

 賊はおそらく士族……鹿鳴館の建設を唱え、今日の舞踏会の主催者でもある外務大臣・井上馨伯爵、その西洋化推進と外交姿勢に不満を持つ士族は多いのだ。
 賊の数は、志づの言ったとおり、ざっと二十人、先頭を切る三人はピストルを手にしている、士族の誇りをかなぐり捨てても伯爵を亡き者にする、と言う決意の程がうかがえる。

 徳三郎が鉄を仕込んだステッキを構えようとするより早く、志づは動いた。
 大きく広がるスカートをさっと捲り上げると、その下は腿も露わな、ごく短いズボン姿、そして腿に巻いた革帯からクナイを引き抜き、目にも止まらぬ早業で賊に投げつけたのだ。

「ぎゃっ!」

 狙いたがわず、クナイはピストルを持つ手を貫き、賊はピストルを取り落とした。
「えいっ!」
 徳三郎は即座に賊を打ち据え、床に這わす。

「やあっ!」
 志づは高く飛びあがってシャンデリアに掴まると、鮮やかな身のこなしでその上に乗った。

 あっけに取られている暇はない、見ると井上伯爵に襲い掛かろうとする賊は上司が次々と打ち据えている、上司は名高い剣客、心配は無用だ。
 しかし、賊の狙いは井上伯爵だけではない、外国の外交官もその標的だ、残りの賊は二手に分かれて英国と仏蘭西の外交官に襲い掛かろうとしていた。
 徳三郎も英国の外交官の前に立ちはだかり、賊と交戦するが、仏蘭西の外交官に危機が迫る

「やっ!」
 志づは薄桃色の紙吹雪を撒いて賊の視界をさえぎると、さっと脱いだスカートを手に、刀を振りかざす賊の上に飛び降りた。

「志づさん、危ない!」
 徳三郎は叫んだが、その直後、我が目を疑うことになる。

 志づは大きく広がったスカートを闘牛士のように目くらましに使うと、五~六人はいる賊の頭を踏みつけるように舞い、強烈な蹴りを見舞ってあっという間に倒してしまったのだ、まるで宙を舞う牛若丸のように……。
 そして、そのまま空を翔るように徳三郎の加勢に廻ってくれた。
 既に三人の賊を打ち据えていた徳三郎だったが、志づが来た瞬間にはもうステッキを振るう必要もなくなっていた。
 残った賊はことごとく志づの舞の餌食となって床に倒れ付していたのだ。

 スタッ。

 床に舞い降りた志づにホール中の視線が集まる。
 すると、志づは一目散に外へと飛び出して行った。
 徳三郎は残されたスカートを小脇に抱えると、志づを追う。

『Did you enjoy the surprise show? Thank you!』
 
徳三郎は玄関扉のところで振り返ると、覚えたての英語でとっさにそう叫んだ。
 無事に制圧したとは言え、賊の襲来を許したのは警察の、ひいては日本の落ち度、そして獅子奮迅の活躍を見せたにもかかわらず、急いでその場から立ち去った志づ……彼女の正体も本来なら知られてはならなかったことを察し、騒動そのものを『無かった事』にする機転だった。

 警官隊が飛び込んで来て、倒れている賊をあっという間に片付けると、ホールはひとしきり『Surprise show』の話題で持ちきりとなり、その後、舞踏会は何事もなかったかのように続けられた……。


O(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


「志づさん……スカートを持って来たよ……」
 志づは庭木の陰に隠れていた、若い娘が素脚も露わな姿で街に出られるはずもない……。
「ありがとうございます……あ……」
「あ……」
 せっかく持ち出したスカートだったが、賊の刀で切り刻まれていて、もはやスカートの体は成してしない。
「これを……」
 徳三郎は着ていたフロックコートを志づに着せ掛けてやった……。
「でも……」
「いいんだ……」
 電光石火の大活躍を見せた志づだったが、すっかり可憐な乙女の顔に戻っていた。

「君は一体何者なんだい? ただの芸妓と言うことはあるまい、味方である事は確かだが……」
「正直に申します……わたくしは忍びの者でございます」
「忍び……くの一か……驚いた、この明治の世にまだくの一が存在していようとは……」
「井上様の命をお受けして鹿鳴館の警備に当たっておりました、でも、正体を現したからにはもう忍びの者ではございません」
「そうか……これからはどうするんだい?」
「芸妓であることもまた本当でございます、これからは一人の芸妓として生きてまいります」
「そうか……しかし、忍びの能力とは驚くべきものだな」
「お恥ずかしい姿を……」
「何を言うんだ……私は心を奪われたよ……」


O(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆   o(・_・)○☆


「確かにこれは惚れるなぁ……」
 剛が天井を見上げるように言う……剛の目には宙を舞う志づの姿が見えているかのようだ。
「ひいひいお祖母ちゃん……凄いわ……歴史の舞台で活躍していたなんて……」
「忍びだから表には出てこないが、却って格好良いな」
「そうね……」
「人知れずに戦う……まるで……」
「ええ、わたしたちのよう……」
「徳三郎さんと志づさんはその後、子供も儲けて幸せに暮らしたんだろう?」
「そうね、お祖母ちゃんの手紙にそう書いてあったわ、ふふふ……見ていて恥ずかしくなるくらいにラブラブだったって」
「志のぶ……」
「なぁに?」
「俺も……その……愛しているよ……」
「私もよ……いつかショッカーを倒したら……」
「そうだな……くの一の血筋を残したいものだな……」

 今は……仲間たちが家族のようなものだ。
 しかし、いつかは本当の家族を……。
 二人の目にはまだ見ぬ家族写真が浮かんでいた……。