赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 16話から20話
「おまえねぇ。いくら子猫が相手とはいえ『からり妓さん』には無理がある。
お前の歳なら、姐さんと呼ばれても差支えがない。
で。なんなのさ。東山温泉では、真っ昼間からお座敷が入るのかい?。
へぇぇ。小原庄助さんゆかりの温泉は、やはりいまだに、粋ですねぇ」
「ですから。
何度も申し上げているとおり、観光協会がたちあげた
観光ツァーのひとつです。
艶と粋でもてなす企画で、立方(たちかた)と地方(じかた)の3人1組で
東山温泉の芸を、昼食時に楽しんでもらいます」
「なるほどねぇ。芸妓の宣伝とアピールには、もってこいの観光企画だ。
で、昼間に観光客たちに披露する演目は、どんなものが
用意されているんだい?」
「最初に、『愛しき日々』。
1986年に放送された「白虎隊の」主題歌です。
メロディに合わせて、芸妓が舞い踊ります。
2番目が『白虎隊』。こちらは飯盛山で壮烈な最後をとげた16歳から17歳の
白虎隊の物語を、舞踏化したものです。
3番目は、会津の『なりませぬ節』。
「ならぬことはなりませぬ」の会津藩に伝わる掟を歌詞にしたものに、
艶っぽい踊りを添えたものです。
あっ。また、お母さん乗せられて、時間を無駄に潰しています!
もう、ホントに時間がいっぱいです。このままでは遅刻をしてしまいます。
もう出かけますから、あとは適当にくつろいでいてくださいな。
まったくぅ~、もう。あ~あ、忙しい、忙しい・・・・
忙しいったら、ありゃしない!」
「あら。どこかで聞いたようなセリフです。
歳はとりたくないですねぇ。
なんだか、すっかり似てまいりましたねぇ、大きなお姐さんの口ぶりが。
お母さんの口癖に?」
慌てふためき、あたふたと飛び出していく小春の後ろ姿を、
豆奴がふふふと笑って見送る。
そのあと、チラリと横目で、春奴お母さんを見つめる・・・・
※芸妓は、経験や場によって担当がわかれる。
踊る役を「立方(たちかた)」。
三味線、唄、鳴りもの(太鼓、鼓)などで伴奏するのが「地方(じかた)」。
唄と伴奏と踊りが一体となり、場をにぎやかに盛り上げる。※
(19)へ、つづく
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (19)
会津磐梯山は、女?
「小春姉さんは、なぜ、東山温泉に籍をおいているのですか?」
ミイシャは清子の暖かい膝の上が大のお気に入り。
ウトウトしているミイシャの背中を優しく撫でつけながら、
清子が、春奴に問いかける。
『よくぞ聞いて下さりました』と、春奴ではなく、たまを
しっかり抱きしめている豆奴が横から、すかさず割り込んでくる。
「小春ちゃんは、春奴母さんが湯西川に来てから、まず最初に育てた、
目に入れても痛くない1番弟子。
立って良し(踊って)、奏でて良し(伴奏)の、両方に秀でています。
ゆくゆくは、春奴お母さんの立派な後継者になると、周りのみんなも、
熱い気持ちで期待をしておりました。
ですが、うまくいかないものです。
そんな小雪に、ある日、突然、魔が差しました」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 16話から20話 作家名:落合順平