赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 16話から20話
「そういえばそうですねぇ。お弟子さんがたくさんいましたねぇ、あの頃は。
あ、でも、ひとりだけ居たじゃないですか。
ほら。例のアレ・・・・市さん。
なぜあのお方と結婚しなかったのですか?
脈は有るとみておりましたが、やはり、事情が複雑すぎたせいですか?」
「市さんですか・・・・そういえばいましたねぇ、そんなお方が。
久しぶりです。会いたくなりました。
お前。連絡をとっておくれよ市さんに。
懐かしいねぇ。あれからもう、30年近くがたつものねぇ」
「誰ですか、豆奴お姉さん。その、市さんというお方は?」
後部座席から運転席へ、清子が顔を出す。
「お前が知らなくても無理ないさ。遠い昔の話だもの。
お母さんの、訳ありのお方だ。
市さんは正式には、市左衛門さんというお名前。
まるでお武家様か、豪傑のようなお名前のもちぬし。
でもねぇこれがまた、複雑な事情を、山のように持っているお人なんだ。
そうですねぇ。せっかく東山温泉まで行くんです。
連絡をとってみましょうか、久しぶりに。
うふふ。あたしまでなんだか、楽しみになってきました」
豆奴も目を細めて笑う。
「お母さん。どのようなお方なのですか。
お話に出ている、市左衛門さんとおっしゃるお方は?」
「あたしの戦友さ。
出会った時は、たしかにいい男だった。
でもね。その後は修行の甲斐もあり、周囲も驚くほどの良い女になった。
いまは会津で芸妓をしている。
結婚してもよかった思うくらい、いい男だったよ市さんは。
そうだねぇ。男というより、やっぱり、かけがえのない戦友だね。市さんは」
「え~ぇ。男から良い女に成長した芸妓?。かけがいのない戦友?・・・・
いったい、どういう人なのかしら。市さんというお方は?」
清子の疑問を乗せたまま豆奴が運転する車が、小春が籍を置いている
会津の東山温泉を目指して、山道をひたすら走りつづける。
(17)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 16話から20話 作家名:落合順平