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銀の錬時術師と黒い狼_魔の島

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「おまえ、ターロンとかいう男を見つけたらどうするつもりだ? 殺すのか、そいつを?」
「過去にもひとを殺したことはあります。レギウスだって何人も殺してきたじゃありませんか……」
 口にしてからいまの発言を後悔したらしい。リンはつと顔をそむける。憂いに表情が沈んだ。
「ごめんなさい。こんな言い方は卑怯ですね」
「事実さ」
 リンはため息をつく。なにも言い返さない。
 レギウスの体内で荒れ狂っていた熱が急激に冷めていく。足元がふらつくほどの疲労を覚えて、フラフラと寝台に腰を落とす。すぐ隣にリンが腰かけ、レギウスに身体を寄せてきた。リンの肩を抱く。彼女の身体は、春の陽だまりのように温かった。
 リンの細く白い指が、レギウスのまばらに生えた顎の無精髭をなぞる。独り言のようにリンがつぶやく。
「……死がそのひとの救いになることもあります。そういうひとたちを、わたしはこれまでに何人も見てきました」
「おれを救うためなら、おまえはおれを殺すのか?」
「殺します」
 リンはきっぱりと言い切った。さほど明るくはない月の光のもとでも、彼女の顔に苦悩の色がよぎるのをレギウスははっきりと目にした。
「わたしはブトウをこの手で殺しました。それが救いになるのなら……わたしは同じことを何度でも繰り返します」
(それでもかまわない。〈光の軍団〉の処刑隊に殺されるぐらいだったら、おれはおまえに殺されてもいい。けれども……)
 リンはうつむき、小刻みに肩を震わせていた。
 レギウスはリンのおとがいに指をかけ、彼女の顔をゆっくりと仰向ける。
 リンは声もたてずに泣いていた。涙の筋が月光を吸ってほの白く光る。
(死ぬことでブトウが救われたのだとしたら……どうしておまえはいまだに苦しんでるんだ、リン?)
「わが生命(いのち)はわがきみのもの……」
 レギウスは誓句を口にする。
 リンの護衛士になったとき、彼女と五柱の神々に誓った言葉だ。その誓約はいまもレギウスの胸のうちにひっそりと息づいている。人間の自分がどこまでリンを──化け物とそしられ、白眼視される彼女を守れるのかはわからない。
 それでも、レギウスは誓ったのだ。
 この生命(いのち)に代えてもリンを守る、と。
 リンがそっと目を閉じる。
 レギウスは唇をリンの唇に重ねた。柔らかな彼女の唇を夢中でむさぼる。
 リンの唇は──
 塩辛い血の味がした。