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紅装のドリームスイーパー

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Dream Level.1 ──悪夢


 夢には二種類ある。
 悪夢か、悪夢じゃないか──そのどちらか、だ。

 おれがいま見ている夢は前者──悪夢だった。
 もう何度も見た夢だ。
 これは夢だとわかっていても安心はできない。以前とまったく同じシーンの繰り返しなのに決して慣れるということはなく、夢を見るたびに鮮烈な恐怖を覚える。
 おれは四車線の道路の歩道をおぼつかない足取りで歩いている。
 おれといっしょに歩いている人物は毎回違っていた。
 周りにいるのは、両親であったり、弟であったり、ときには見知らぬ他人であったりしたが、おれのすぐ右横にいる人物はどの夢でも共通していた。
 悪夢の核──それが、彼女。
 早見菜月(はやみなづき)。
 夢のなかでの彼女は、その当時の容姿をたもっていた。二年前──中学二年生のときの菜月だ。
 肩で切りそろえた栗色の髪。くりくりとよく動く蜂蜜色の双瞳。微笑むと笑窪のできるふくよかな頬。
 かわいい女の子だった、菜月は。おれの幼なじみで、クラスメイトだった女の子。
 二年前のあのときは、菜月のほかにあとふたりのクラスメイトがいた。そのふたりが夢のなかに登場する頻度は少ない。おそらく、夢をつむいでいるおれの心が、無意識のうちにふたりの存在をしめだしているのだろう。この悪夢で苦しむのは自分だけでいい──おれ自身にもうかがい知ることのできない心の奥深くで、そう思っているのかもしれない。
 信号のある交差点に差しかかる。緩やかに流れていくクルマの列は、さながら毒々しい色の排水に汚染された大河のようだった。
 菜月が話しかけてくる。どこか舌足らずで、間延びした口調。「ヤだ!」を連発するのが彼女の口癖だった。
 そのとき──
 一台のクルマが整然とした行列からはみだし、こちらに向かって突っこんできた。
 菜月がクルマにはねられる。
 ほっそりとした身体がいびつな放物線を描いて宙を舞った。まるで壊れた人形をポイと放り投げたみたいだった。菜月の身体が青灰色のアスファルトの路面に落ちるまで、無限とも思える時間がノロノロと這い進んでいく。
 おれはなにもできなかった。
 動くことも、声を出すこともできず、ただその場に凝然と立ちすくんで、菜月が落ちていくのを傍観している。
 手を伸ばせば、空中にいる菜月をつかまえられそうな気がした。
 動け、と自分の腕に頭のなかで命じて──

 いつもそこで夢は終わる。
 おれは、目覚める。
 胸の奥底にわだかまる鈍い痛みとともに。